中年オヤジNY留学!

NYでの就職、永住権取得いずれも不成功、しかし、しかし意味ある自分探しに。

平成くたびれサラリーマン上海へ行く(その9)後悔と怒り

2018-07-06 22:07:03 | 海外留学

(ここまで)
主人公の松尾次郎は、チョットした縁で人生の峠を迎えた頃に有りがちなトラブルに遭遇。
どうせ、今の自分は”おまけの人生”とばかり、気前よくジョーカーを切りました。
しかし痛い目に会っています。
この手の話は、最後は自分で這い上がるしか。





(その 9)
 後悔と怒り )

昨夜は、次郎独りで苦しみながら長い夜をすごした。
今朝(けさ)は通常の出勤日である。 こんな時は、誰もが休みたい、しかし、そうもいかぬのがサラリーマン。
出社し同僚に事の次第が悟られぬよう、次郎は目を合わせぬようし、“落ち着け、落ち着け”と自分に言い聞かせる。
なぜなら一部の上司、同僚はこの数日の次郎の休暇取りは特別な日であったのを知っている。

泣きを入れる
そして、暇を見つけ、次郎は劉さんの紹介者でもある山下に、“SOS”とも言える泣き言を彼の携帯電話にいれた。
“昨日の夜、会社から帰ったら彼女がいないんだ、消えたんだよ”
そして、続けた“逃げたと思うな、荷物は全部持っていったみたいだ
さすがの山下も、“ウーン…・・”と唸ったまま沈黙した。
“どこへ行ったか見当つかないか?”と山下は次郎に聞く。
“正直言って、まるっきりわからないよ”と次郎は半ばすべをなく。
今回だけは山下も、彼女の肩を持つことなく“俺、松尾さんに迷惑掛けちゃったみたいだな、そんなつもりサラサラなかったんだけど、ただ松尾さんに幸せになってほしいだけだったんだけど”と言葉もなかった。

不思議と次郎は、山下に電話する事によって、少し楽になった気がする。
山下は言う、“松尾さん、一応、警察に捜索願を出しといた方が良いかもしれないよ、それから入管(入国管理局)にも”と。
“ちょっと、大げさじゃない?”と次郎は。
とりあえず次郎は誰かに話すことによって、胸のつかえが少しは下りた気がした。




(日本人なら本来、無縁の非日常?)
 思い返せば、彼女が次郎の家に滞在したのは来日してわずか数日。
それにしても早い幕切れだった。
何だったのか?
日本への入国ビザを単にだまし取り、更に運が良ければ金を来日早々にかすめ取るだけなら、自分の身内や職場の仲間に次郎との結婚は秘密にしても良さそうなものに?
次郎との結婚披露宴の会場である和平飯店(ホテル)に招待した彼女の勤め先の病院の婦長を始め、たくさんの看護師の同僚に、将来この顛末(てんまつ)を何と説明するのだろうか
普通であれば、“悪い事、秘密めいた事”は隠れてやるものだ。自らが壊すことになるこの結婚の披露宴を、わざわざやる必要があったのか?
それとも病院を辞めるのは確実な事とし、披露宴は退職のご挨拶代わりだったのか?
日本人には理解できない。

それだけではない彼女が日本に来る少し前も、これは?と思わせる出来事も多々あった。
上海の自宅に国際電話をすると、何度か不在(当時はWeChat など中国のSNSはない)、決まって母親が電話に出て“用事で出ている”あるいは“日本語を勉強しに行ってる”と。
これには、さすがに人の良い次郎も“アレー”と思った。
劉さんは、真剣に日本語を勉強しようとしているタイプでは無かった、これまで彼女の口から一言も日本語を次郎は聞いた例(ためし)が無い。
彼女の母親も娘の為に、嘘で取り繕っていたのだろう。

これは極論だが、次郎の経験から女性が自宅を頻繁に空け、電話に出れない状態で、パートナーを煙に撒いているのは、他に別の男がいるか?もしくは重大な事を隠していると思って良い。

日を数えるごとに、次郎は落ち着きを取り戻し、今回の件のあらましが見えてきた。
と同時に次郎の中に、劉さんに対しての“怒り”のようなものが、込みあがってきた。
今まで、彼女のために嫌いな飛行機にのり上海へ何度も往復したのは何なんだったのか?
事のつまりは、大金でも無いがお金、そして時間や苦労、彼女のために、これまでつぎ込んだ次郎の行為は何を意味するのか?
例え、万一、次郎が同じように偽装結婚に利用されても、もっとマトモナ中国人の力になりたかったと思う。
本当に、日本語の勉強をしたい人とか、中国で才能があっても、チャンスに恵まれない人とか。
これでは、次郎は騙され該がない
後悔と怒りである。

次郎が、中国で見てきたいろいろな光景を、差別と人種偏見というなら、彼は甘んじるが、日本人と比べ(90年代の中国)不運とも思える数多くの中国人、特に若者を中国の街中で、次郎の目には焼き付いている。
中国のホテルやレストランでは、日本なら学業に専念している年代のまだ子供のニオイが残る若者が多く安い給料で働いていること。
路上では、この時代に動力のない手押し車、台車で重い荷を引く若者達。
自転車が、キシムほどの荷を乗せ人馬の如く働く人々。
劉さんは、彼らの誰よりも劣ると。

(時が経てば、見えてくる)
時間の経過と伴に、次郎には劉さんの狙いが見えてきている。
次郎の目にはそれは世界を知らない、情報不足と、観察力のない人間のすることではないか?と。
また一般的に、これだけたくさん中国人が日本に来ているのに、まともに日本語を勉強している中国人が少なすぎる、日本で幾ら稼げるか?で日本を評価しようとしている 
次郎は彼らに時には、日本人の心の琴線に触れる、美しい日本語で日本人を泣かせてみろと思う事がある。このご時世(90年後半の就職氷河期)、日本人の若者ですら、職探しにアクセクしているのに、日本語もろくに話せない劉さんが次郎の下を離れ、楽に金を稼げるわけがない。
多少、器量は良いが三十半ば先の見えてきた女性が風俗で働くにしても限度がある。
劉さんは何を勘違いしているのだろうか?

服の商売に投資して40万元の穴を空けた事も、今となってみて、くだらない嘘とわかる。
彼女の着ている服装から、ファッションの専門知識があると到底おもえない。 今、中国といえども、オシャレな中国女性のファッションは日本のものと余り変わらない。
次郎から金をせしめるにしても、耐えて待つ事を知らない彼女は、早い時期から一発勝負を仕掛けてきたのだ。
(西洋の諺で“教育を日常的に受けていない者は、”時が熟すまで待つ事“が苦手とある。)
次郎から金策を拒否され、この先も見込みが無いとこれ以上一日たりとも、次郎のところに長居は無用と見た劉さんは、当初の予定通り多分、日本にいる仕事を紹介する中国の知人を頼って、次郎のもとを離れたに違いない。
(後で分かることだが、次郎が家を不在にした短期間に、中国、日本国内数か所に相当数の電話をかけていた事が、その後判明している。)
無計画な割に、仕掛けるのが早い、上海で糸を引く他の人間の存在の可能性もある

そして、次郎の気持ちは完全に劉さんから離れた。
山下の言う通り、警察に捜索願を出すことにした。
彼女が何らかの犯罪の被害者、加害者のどちらになっても、次郎にとって問題だからだ。

次郎は矢継ぎ早に動いた。
ついで、入管(入国管理局)にも相談してみる。 これこれ、しかじかだが何か解決法が有るや無しや訪ねてみる。
入管の担当官いわく“状況報告書を提出してください、それから戸籍から彼女の名を削除、離婚等の手続をしてください、さもないと彼女は貴方の配偶者として、永久に在日が合法化されますから……”
次郎は自分に問いかけた“離婚…・・それは、分る、しかしどのようにしたらよいか?”
具体的にはどのようにしたらの次郎の質問に、担当官は何か法律相談所があるからそっちで当たってくれと、素っ気なく終った(冷たくあしらわれた)
次郎の中国での夢捜しは、ここに来て思わぬほうに展開した。
警察、もしかして裁判所のご厄介になる、突然に坂道を転げ始めたといっても良い。
それらの全てが、今まで普通の生き方をして来た次郎にとって無縁のものだった。

人は好く言う“自分の蒔いた種は、自分で刈らねば
次郎は、まさにその人となった

(つづく)









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