雲上楼閣 砂造宮殿

気ままに自分勝手なブログ。徒然に書いたり、暇潰してみたり、創作してみたり・・・

TREE2

2014-05-23 22:31:46 | 東方神起とか
風は音をたて街を襲った。人びとは抱き合い、恐怖に戦きながら日々が過ぎ去るのを待った。
それでも、風が止むことは無かった。

町外れに建つ、屋根の落ちた高い高い塔の上に、2人の男が降り立った。
2人は、平素とは違う、険しい顔をしていた。
「やぁ」
「あぁ」
「「久しぶり」」
2人は言葉少なに握手を交わした。
別々の場所に立つ創造主は、実に久しぶりの再会を果たしたのだった。

2人が空を見上げた。
鼠銀の雲に覆われ、赤銅色の稲妻が走っている。強い風が吹き付け、黒い枯れ葉が渦巻いている。
風からは、雨の匂いがしなかった。
「あれは」
「あぁ」
2人は頷いて、また空を見上げた。

風の中心には、昏くて黒い、年経た巨木がそびえ立っていた。
「来たのか」
「来たな」
「巡る神だ」
「いつかは訪れる神だ」
それは、創造とは対局にいる神だった。
「芽吹かせるか?」
創造主の片割れは、首を横に振った。
「僕もだ」
無言の創造主の片割れは胸に手を当て、何事かを懸命に念じた。
また、もう片割れも同じように念じると、空中に何かがゆっくりと現れ始めた。
それはユラユラとして、微かに輝き始めた。
そして、何物かは虹と黄金の輝きを放つ一枚の木の葉になったのだった。
創造主がその木の葉に向かって、そっと息を吹きかけた。
するとその木の葉は、まるで意思を持つかのように、巨木に向かって進み始めたのだった。
もう一人の創造主の木の葉も、巨木に向かって進み始めたのだった。
すると、一枚の葉が二枚になり、四枚になり、16枚になり、段々と増えていった。
虹と黄金に輝く木の葉は、一人の思いから一枚ずつ、無数の、人と同じ数に増え、空を覆いつくしたのだった。
「綺麗…」
母の腕に抱かれた子どもがつぶやいた。
「神の祝福だ。ご加護だ!」
男が叫んだ。
「神様、ありがとうございます」
老人がつぶやいた。
その後、昏くて黒い巨木は跡形もなく消え去り、あとには常と変わらぬ平穏な日々が訪れたのだった。
ただし、たった一つだけ、変化をもたらして。

「おじいちゃん、もう紅い実、食べられないね」
少女と、その子と手を繋ぐ老人は目の前にある木を見上げて言った。
「そうかも知れないなぁ」
木は、雷に撃たれたのか、真っ二つになっていた。
木に集っていた人びとは、その木の命が費えた事を、我が親の死であるかのように悲しんだ。
ふと、人びとの耳に、木の葉の囁きが聞こえた気がした。

同じ頃、丘の木は葉を全て落とし、ブランコが下げられた枝は折れ、その断面は乾いていた。
「ブランコ、乗れないね」
女の子は、そう言った妹の手を握りしめた。
「大丈夫」
女の子は、妹に目をあわせてもう一度つぶやいた。
「大丈夫。今度はお姉ちゃんが作ってあげる!」
途端、妹は輝く笑みを浮かべて勢いよくうなずいた。
「うん!ブランコ、楽しみだね♪」
「うん」

街にも、丘の上にも、今はもうあの木はない。
それどころか、そこに木があった事を知る術はないのだった。