風は音をたて街を襲った。人びとは抱き合い、恐怖に戦きながら日々が過ぎ去るのを待った。
それでも、風が止むことは無かった。
町外れに建つ、屋根の落ちた高い高い塔の上に、2人の男が降り立った。
2人は、平素とは違う、険しい顔をしていた。
「やぁ」
「あぁ」
「「久しぶり」」
2人は言葉少なに握手を交わした。
別々の場所に立つ創造主は、実に久しぶりの再会を果たしたのだった。
2人が空を見上げた。
鼠銀の雲に覆われ、赤銅色の稲妻が走っている。強い風が吹き付け、黒い枯れ葉が渦巻いている。
風からは、雨の匂いがしなかった。
「あれは」
「あぁ」
2人は頷いて、また空を見上げた。
風の中心には、昏くて黒い、年経た巨木がそびえ立っていた。
「来たのか」
「来たな」
「巡る神だ」
「いつかは訪れる神だ」
それは、創造とは対局にいる神だった。
「芽吹かせるか?」
創造主の片割れは、首を横に振った。
「僕もだ」
無言の創造主の片割れは胸に手を当て、何事かを懸命に念じた。
また、もう片割れも同じように念じると、空中に何かがゆっくりと現れ始めた。
それはユラユラとして、微かに輝き始めた。
そして、何物かは虹と黄金の輝きを放つ一枚の木の葉になったのだった。
創造主がその木の葉に向かって、そっと息を吹きかけた。
するとその木の葉は、まるで意思を持つかのように、巨木に向かって進み始めたのだった。
もう一人の創造主の木の葉も、巨木に向かって進み始めたのだった。
すると、一枚の葉が二枚になり、四枚になり、16枚になり、段々と増えていった。
虹と黄金に輝く木の葉は、一人の思いから一枚ずつ、無数の、人と同じ数に増え、空を覆いつくしたのだった。
「綺麗…」
母の腕に抱かれた子どもがつぶやいた。
「神の祝福だ。ご加護だ!」
男が叫んだ。
「神様、ありがとうございます」
老人がつぶやいた。
その後、昏くて黒い巨木は跡形もなく消え去り、あとには常と変わらぬ平穏な日々が訪れたのだった。
ただし、たった一つだけ、変化をもたらして。
「おじいちゃん、もう紅い実、食べられないね」
少女と、その子と手を繋ぐ老人は目の前にある木を見上げて言った。
「そうかも知れないなぁ」
木は、雷に撃たれたのか、真っ二つになっていた。
木に集っていた人びとは、その木の命が費えた事を、我が親の死であるかのように悲しんだ。
ふと、人びとの耳に、木の葉の囁きが聞こえた気がした。
同じ頃、丘の木は葉を全て落とし、ブランコが下げられた枝は折れ、その断面は乾いていた。
「ブランコ、乗れないね」
女の子は、そう言った妹の手を握りしめた。
「大丈夫」
女の子は、妹に目をあわせてもう一度つぶやいた。
「大丈夫。今度はお姉ちゃんが作ってあげる!」
途端、妹は輝く笑みを浮かべて勢いよくうなずいた。
「うん!ブランコ、楽しみだね♪」
「うん」
街にも、丘の上にも、今はもうあの木はない。
それどころか、そこに木があった事を知る術はないのだった。
それでも、風が止むことは無かった。
町外れに建つ、屋根の落ちた高い高い塔の上に、2人の男が降り立った。
2人は、平素とは違う、険しい顔をしていた。
「やぁ」
「あぁ」
「「久しぶり」」
2人は言葉少なに握手を交わした。
別々の場所に立つ創造主は、実に久しぶりの再会を果たしたのだった。
2人が空を見上げた。
鼠銀の雲に覆われ、赤銅色の稲妻が走っている。強い風が吹き付け、黒い枯れ葉が渦巻いている。
風からは、雨の匂いがしなかった。
「あれは」
「あぁ」
2人は頷いて、また空を見上げた。
風の中心には、昏くて黒い、年経た巨木がそびえ立っていた。
「来たのか」
「来たな」
「巡る神だ」
「いつかは訪れる神だ」
それは、創造とは対局にいる神だった。
「芽吹かせるか?」
創造主の片割れは、首を横に振った。
「僕もだ」
無言の創造主の片割れは胸に手を当て、何事かを懸命に念じた。
また、もう片割れも同じように念じると、空中に何かがゆっくりと現れ始めた。
それはユラユラとして、微かに輝き始めた。
そして、何物かは虹と黄金の輝きを放つ一枚の木の葉になったのだった。
創造主がその木の葉に向かって、そっと息を吹きかけた。
するとその木の葉は、まるで意思を持つかのように、巨木に向かって進み始めたのだった。
もう一人の創造主の木の葉も、巨木に向かって進み始めたのだった。
すると、一枚の葉が二枚になり、四枚になり、16枚になり、段々と増えていった。
虹と黄金に輝く木の葉は、一人の思いから一枚ずつ、無数の、人と同じ数に増え、空を覆いつくしたのだった。
「綺麗…」
母の腕に抱かれた子どもがつぶやいた。
「神の祝福だ。ご加護だ!」
男が叫んだ。
「神様、ありがとうございます」
老人がつぶやいた。
その後、昏くて黒い巨木は跡形もなく消え去り、あとには常と変わらぬ平穏な日々が訪れたのだった。
ただし、たった一つだけ、変化をもたらして。
「おじいちゃん、もう紅い実、食べられないね」
少女と、その子と手を繋ぐ老人は目の前にある木を見上げて言った。
「そうかも知れないなぁ」
木は、雷に撃たれたのか、真っ二つになっていた。
木に集っていた人びとは、その木の命が費えた事を、我が親の死であるかのように悲しんだ。
ふと、人びとの耳に、木の葉の囁きが聞こえた気がした。
同じ頃、丘の木は葉を全て落とし、ブランコが下げられた枝は折れ、その断面は乾いていた。
「ブランコ、乗れないね」
女の子は、そう言った妹の手を握りしめた。
「大丈夫」
女の子は、妹に目をあわせてもう一度つぶやいた。
「大丈夫。今度はお姉ちゃんが作ってあげる!」
途端、妹は輝く笑みを浮かべて勢いよくうなずいた。
「うん!ブランコ、楽しみだね♪」
「うん」
街にも、丘の上にも、今はもうあの木はない。
それどころか、そこに木があった事を知る術はないのだった。