妄想ジャンキー。202x

人生はネタだらけ、と書き続けてはや20年以上が経ちました。

島時間の中で

2008-03-25 00:31:01 | 沖縄
沖縄観光をしているというより、沖縄で暮らしているに近かったこの数日間。
出かけるところはといえば、スーパーだったりコンビニだったり、おじいのデイケアセンターだったり。
キレイな海がすぐ近くにあるわけじゃないし、2日目なんて雨降ったりもしたけれど。
それでもいい。
これが私が見てきた沖縄だもの。


【母の朝帰り】

生粋のうちなーんちゅである母は、那覇に着くなりハネを延ばす。
「マーコと飲んでくる。1時間くらいで帰るから」
といって松山に出て、ホテルに帰ってきたのは翌朝7時。
「これじゃ何説教されても説得力ないね・・・」
酔いつぶれている母を眺めながら、妹・みなみと呟く。


【カメーカメー攻撃】

那覇市内をタクシーで飛び出て、いざ豊見城へ。
駐車場に入るとおばあが窓からピョッと首を出している。
目が合って手を振ると、どこをどう瞬間移動したのか玄関から飛び出してきた。
「はっさ!待っとったさ~!」
二日酔いで「キモチワルイ」としか呟かない母をさっさと寝かせて、妹を連れて久々におばあと話す。
──久しぶりだなあ、このうちなーぐちも。
沖縄独特のイントネーションに気がついたら自分も染まっている。
このへんはやっぱりうちなーの血が流れているのだと思う。
そんなことをしみじみ考える間もなく、早速おばあのカメーカメー攻撃が始まった。
「あんだぎー食べなさい、昨日作ったさ」
「このケーキはね、おじいちゃんが残したものなんだけど」
「それともトーフ汁飲む?」
腹を空かしたみなみはガツガツ食べていて、それを見るおばあも喜んでいて。
私もガツガツ行きたいところだったけど、あとで戻すことが予想できたので少しずつ戴いた。
新橋や新宿で沖縄居酒屋を色々みてきたけれど、やっぱりおばあの沖縄料理には絶対叶わない。

【ビーチ】

休みをとってくれた叔母・ノリちゃんも合流して、4人でドライブに出ることに。
もちろん母は放置。
「みなみどこ行きたい?」
「海!」
「沖縄は海ばかりさー」
ノリちゃんとおばあは笑っていたが、埼玉暮らしで海は早々見れるものじゃない。
車は糸満市内を軽快に抜けて知念半島までやってきた。
平和祈念公園を通り過ぎ、奥武島。
「ここのテンプラが美味しいんだよ」
一番年の近い親戚でもあるノリちゃんはフットワークが軽い。
昨年5月に行ったときも、那覇市内のアパートに泊まらせてもらった。
翌日に就職面接を控えているというのに(そのときの目的は就職活動だった)2人で酒を飲んだりもした。
そのノリちゃんが今日選んだのは美味しいテンプラ屋。
内地のてんぷらと比べて衣が薄く、しっとりしている。
「これならひーちゃんも食べられるでしょ」
「ほんとだ、美味しい」

そのあと海の見える喫茶店に連れて行ってもらい、おばあと妹と私と叔母の4人でおしゃべりに花を咲かせた。
ガールズトークはなんでこうも盛り上がるのか。
ミーバルビーチに場所を移しても話が止まらない。
「みなみは付き合ってる男の子はいるの?」
「えー、どっちだと思う?」
「いないいない」
と私が言うと
「そんな言い方ないじゃん」
みなみが笑いながらボヤく。
「いたっていいさ。大学生になったらボーイフレンドともおいで」
おばあが笑う。
静かな入り江のビーチ。
4人で貝を拾って、家でくたばっている母へのお土産にしておいた。


【デイケアセンター】

豊見城に戻る前に、おじいを迎えにいくことにした。
おじいが週3回通っているデイケアセンターは山の頂上にあり、那覇空港まで見渡せる景色のよさだ。
「おじいちゃん、迎えにきたよ」
みなみが部屋に入っていくと、おじいは顔をパッと明るくさせた。
「はっさ、大きくなった」
同じテーブルに座っていた友人たちに私たちを紹介している。
職員何人かも回りに集まって、ワイワイ騒ぎ出した。
ヘルパーの実習で何度か見慣れた光景だ。
おばあが世話になっているという職員に
「こっちの孫、4月から内地でヘルパーさんやるんだよ」
「へえ、そうなんですか?」
と職員。
「はい、横浜のほうで」
「玄徳さん(おじい)喜びますよ。でも大変ですからね、頑張ってください」
「はい」
「腰、痛めないようにね」
「なぁに、ひとみは若いから大丈夫さ」
おじいが杖をつきながらやってきて笑っている。
おばあもそれをみて笑っている。
──5月の選択は間違いじゃなかった。

以前このデイケアセンターにやってきたとき、ここはおじいの学校みたいな場所なんだと思った。
「おじいちゃんの学校みたいだね」
今回みなみが同じことを呟いたことに驚く。

【ショッピング】

島暮らし2日目。
近所に住むいとこの沙織と沙貴がやってきた。
「みなみ、ひーちゃん久しぶりさあ!」
「みなみおっきくなったねえ!」
「あんたらに言われたくないわ」
妹分の2人の登場で、みなみの態度が少し大きくなっている。

2人の母にあたる叔母・キイちゃんも一緒になり、さらに昨日一緒だったノリちゃんも合流。
おじいは歯医者、おばあと母は買い物だということで、女6人で出かけた先はアウトレットモール・あしびなー。
気付いたら叔母2人はブランドショップに入っており、自然と女子高生2人と女子中学生2人のおもりを負かされることになってしまった。
「みなみあのお店いきたい」
「沙織もいきたい」
「はいはい・・・」
せっかくだから社会人服の1枚くらい買おうかなと思っていたのに、気付いたら荷物持ちである。
「まあいっか・・・今日くらい」


【北谷】

午後、リサイクルショップへ。
助手席に乗ったのはおじい、後部座席に妹。
「おじいちゃん買い物したいんだが、ひいちゃん車運転できる?」
「うん、出来るよ」
「じゃあ北谷の・・・」
ということで、今度はおじいのショッピングに付き合うことに。
ベランダに置くテレビ台が欲しいらしく、リサイクルショップを目指した。
「ベランダに置くの?」
「盆栽の世話するのにかがむのがきついからねえ」
「おじいちゃんお庭好きだもんね。みなみ、古波蔵のお庭好きだったなあ」
「みなみもかい?おじいちゃんも好きだったさ」
2人の会話に笑いながら、車を走らせる。
古波蔵の家は、おじいが足を悪くしたのをきっかけに売り家になった。
駐車場から離れており、しかも家の中に段差が多い。
バリアフリーとはいえない家だったが、私も古波蔵の家が好きだった。
伝統的な沖縄の瓦屋根。
あんまり可愛くないシーサーが何匹か。
一番好きだったのはおじいのお手製の庭に咲き誇っていたハイビスカス。
夏休みにはいつも髪飾りにしていたハイビスカス。
──今あの家はどうなっているんだろう。
センチメンタルにひたっている間に、北谷に到着した。

【矛盾】

沖縄の風景はやんばるから南部、はたまた離島まで見慣れてきたつもりだった。
しかし中城から北谷に抜ける道を走っていると、改めて驚かされる。
『OKINAWA KEY STONE』
米軍基地。
街を分ける広大なフェンス。
法律の違う区域。
「戦闘機だ・・・」
風に漂う星条旗と日の丸には、矛盾ばかりが漂っているようにみえた。

【アメリカ村】

美浜のアメリカンビレッジへ。
土曜の夜とだけあって人が多い。
車におじいを待たせて妹とショッピングを楽しむ。
妹は化粧品のアウトレット価格に驚いて、それからアメリカ兵の多さに驚く。
「やっぱり外国人はかっこいいなあ」
「・・・めでたいやつ」

【幼少期】

夜、親戚一同が集結した。
夕飯の支度をしていると
「ひいちゃん、ちょっと」
おじいの呼ぶ声についていくと、ビデオテープの山が。
「ビデオ?」
「ひいちゃんが小さかったころのビデオさ」
早速上映会が始まる。
「仁美2歳、博紀3ヶ月・・・ってことは」
「20年前?」
「えーっ、もう20年前になるの?!」
ブラウン管には20年前の沖縄や埼玉が映る。
どれも見覚えのある風景ばかりだ。
「かわいい!」
「ひーちゃんにもかわいいときがあったんだね・・・」
年下のいとこたちが呟いたので、足蹴り一発。
「痛いっ!」
「このまま成長してればよかったのに」
まったく、うちなーの若者は口達者である。

『一番楽しかったのは何ですか?』
『えーとね、海!』
『どこの海?宮古?なーみん?』
『えーとね、おじいちゃんと一緒に行った海!』
『そうだね。ひいちゃん、おじいちゃんのこと大好きだもんね』
『大好き!』

おじいは目を細めてみている。
20年の歳月が流れ、おじいも私も風景も、全てが変わっていった。
あまりに長い時間を感じる。
──でもおじいちゃん、私おじいちゃんのこと大好きだよ。20年経った今でも変わらないよ。

聴きなれた柱時計の音が鳴り響く。
20年前、この音にいつもビックリしていたっけ。
おじいと2人で寝ているとき、深夜にかかわらず鳴る柱時計。
ハッと目覚めてしまって怖くなって眠れなかった私に気がついて、いつもおしゃべりに付き合ってくれた。
おじいちゃん。

その夜、おじいを寝かせつけながらおばあと話した。
「おじいちゃんも喜んでるよ。ひいちゃんが立派な仕事に就いてくれるって」
「うん、それ嬉しい。立派かどうかはわからないけど」
「はっさ、立派さあ!」
立派な介護職になれるかどうか判らないけれど、でも、どんなに大変でも頑張れると思った。
──だっておじいとおばあのこと、こんなに大好きだもん。
「そうだ、おばあちゃん。私学校で習ってきたんだ。腰痛めない介護の仕方。おばあちゃんも楽になるでしょ?」
「へえ、えらいねえ。勉強したんだねえ」
「そうそう。ちょっとお母さん、練習台になってー!」
テレビを見ていた母を呼び寄せ、実習が始まった。


その夜、おじいとおばあの寝室で寝た。
柱時計が何度鳴ったか分からなくなるほどに、泣きながら寝た。
もうこんな日々は来ることはないのかもしれない。
そう思うと涙が止まらなかった。


【涙のジャスコ】

海中道路に行ったり、やんばるの落成パーティに行ったり、八重子おばさんちに遊びにいったり。
本島を縦横無尽に駆け抜けた数日間。
といってもほとんど観光ではなくアッシーである。
「あんたは酒飲んじゃだめだからね」
「なんで、もう20超えてるのに」
「違う。運転する人がいなくなる」
「なるほど・・・」

最後の日。
ノリちゃんもキイちゃんも仕事だというので、空港まではモノレールで行くことにした。
おばあは空港まで運転は出来ないが、小禄のジャスコまでは送らせてくれと言った。
「モノレールの駅まででいいよ」
「いや、買い物がある」
「お父さん何買うの?」
「宝くじさ。サッカーの」
「宝くじ買うの?!当たるの?」
「先月2万当たったさ」
「えーっ!すごい!」

重い荷物を引きずって、モノレールの改札口までやってきた。
心なしかおじいの口数が少ない。
きっぷを買う。
時間を確かめる。
振り返る。
「お父さんお母さんじゃあね」
と母。
「ひいちゃんもみなみも、環境変わっても体に気をつけて頑張るんだよ」
「うん、おばあちゃんもね」
「おじいちゃん、元気でね。また絶対来るからね」
おじいは何も言わずに強くうなずいて、手をギュッと握った。
麻痺していたとは思えないほど左手の力が強く、私もギュッと握り返した。


【空へ】

「当機はまもなく離陸します」
巨大なジェット機が空へ飛び立つ。

横に座る母と妹はもう眠っている。
──情緒のかけらもないやつ。
それでも知っている。
少なくとも母は、ここ沖縄では確かに娘であると。
ほほえましくて、妹と何度もニヤニヤしていた。

「ひいちゃん今22歳だから、あと5年くらいかね」
「何が?」
「結婚さ」
「結婚って、そんなまだ早いよ。仕事もしてないさ」
「でも10年後はおじいちゃん判らないさ」
──判らないなんて言わないでよ。
──おじいちゃん、私の結婚式には絶対来るって言ってたじゃん。
──やだよ、そんなの。絶対いやだよ。
美ら海が涙でにじんでくる。
大丈夫、おじいとおばあには私がついているから。
だからおじいとおばあも応援して。
私がんばるよ。
みんな、おじいとおばあだと思って、頑張って仕事する。
なかなか会えなくなるかもしれないけど、でもずっと思ってる。
おじいとおばあのこと思ってる。



うちなーんちゅの血が、今ここに流れていることを、心から幸せに思う。



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