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『べっぴんさん』15週 さくらと靴屋の魔法使い

2017-01-15 19:54:51 | 朝ドラの感想

2016年後期BK朝ドラ『べっぴんさん』の第15週「さくら」のネタバレ感想。



麻田さん、ありがとう。




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●靴屋の魔法使い



麻田さんに老いが迫ります。


第1週、病に臥せった母へ刺繍のハンカチを贈ろうとするもうまく出来ないことに涙を流した幼いすみれ。
そのすみれに「別品作りの手仕事」を教えたのが麻田さんでした。



「そやけど想いを込めたら伝わるんです。それが一番大事なことなんです。誰がどんな想いをこめて作るのか、それが一番大事なんです」

すみれにも視聴者にもかけられた針と糸の魔法。
その魔法が解ける日が近づいています。

昭和25年の春。
小学校にあがるさくらのため、靴を注文すべく麻田さんを尋ねたすみれ。
麻田さんはさくらの足型をとり一度は注文を受けるのですが、ある悩みを抱えていました。
目が見えづらくなり手先も思うように動かない。
病という話はなかったので単純に老いだと思います。
時間の流れの残酷さ。



もう作ることはできない、と一度断るのですが、さくらが思いがけないことを言いました。
「さくらの靴を作って」
みんなを幸せにしてきた麻田さんの靴。
麻田さんの身体に事情があるにしろ、幼いさくらが『老い』を考えることも少ないでしょう。
それに、何より履いてみたいよね、「幸せにしてくれる靴」。



いつぞやのすみれのように麻田さんの靴作りに魅入るさくらを見て、すみれも麻田さんにもう一度頭を下げました。

いつだってさくらの子育てに真正面から向かってきたすみれ。
この子を守るためとはじめた商いに夢中になるばかりに、靴が狭くなってることに気づかなかったときもありました。
親戚が集まる場で素直すぎる発言をした娘に頭を悩ましたこともありました。
だからこそ、「この子には幸せになってほしい」と思っていたのではないのでしょうか。

幸せにしてくれるあの靴、あの魔法。
すみれにしても簡単に諦めきれるものでもないでしょう。

それは麻田さんも同じ。
麻田さんのバックボーンは多くは語られてはいませんが、「想いを込めて作る」ことは時代が変わっても変わらないはず。



別品を教えてくれた魔法使いは、最後の一仕事のため、針と糸を手にします。



●本物の価値





そのころキアリスでは一つの問題が起こっていました。
キアリスの模造品が出回っていて売り上げが落ちている。
紀夫の言葉からすみれたちもそれを知り、模造品販売をしている業者を突き止めると、驚いたのは明美ちゃん。
いつだかに明美ちゃんの弱みに付け込んできた玉井が、あのとき言っていたように模造品を作って売っている。
キアリスよりはるかにお財布に優しいお値段で、大量に積まれたその肌着を主婦たちが買い求めている。

「本物のキアリスは子供服のくせに高過ぎるんや」

高級ベビー服ブランド、キアリスのモデルは言わずと知れたファミリア。
ファミリアのホームページでお買い物ができるんですが、これまた0の数が……!
大量生産大量消費、ファストファッションに慣れたお財布だとちょっと躊躇してしまうお値段。



安く手に入ること、たくさん作られること、安定的に供給できること。
悪いことではありません。
むしろ玉井がそうしたビジネスに乗り出したのも、また時代なのだと思います。

時代が変わった。
職人の手も衰えた。
いったい何が正しいのか、と悩めるすみれに麻田さんは投げかけました。



「本物を作る。想いを込めて作る。どんなことがあってもそれを貫き通す。それだけです」

何があっても信念は曲げてはいけない。
たとえそれが老いや時代など、時間という抗いようのないものであろうと。

神戸大空襲で多くのものを失ったことでしょう。
物資不足のため、下駄を作って生計を立てていた時期もありました。
進駐軍との取引で革靴職人に復帰し、すみれたちをそばで見守りながら生きてきた激動の戦後。



やがて経済も安定し、玉井たちの作るような「安価、大量生産」の時代を迎えようとしている。
それでもなお問い続ける本物の価値。

人や時代など変化していくものだらけのなかで、「変わらないものを何より大切にしなさい」というメッセージなのかもしれません。



●名優・市村正親




『べっぴんさん』の原点ともいえる麻田さん。
演じるのは言わずと知れた市村正親さん。

べっぴんを貫き通した靴職人・麻田さんの言葉に、市村さんの俳優人生が脳裏をよぎりました。

「前を向こうと顔をあげれば、そこに見えるんです。勇気、愛情、信頼、希望」

麻田さんはさくらへメッセージを渡し、すみれたちは「いってきます」と角を曲がっていきます。
ラストカットは手を振る麻田さんの笑顔を大写し。
別品の芝居を作り上げた名優・市村正親への敬意と、名優の演技に多くを学んだであろう若手俳優たちへのエールを感じました。



●皇室御用達!


時代は昭和35年となりました。

第2週で結納結婚出征出産終戦という怒涛の高速展開のあと、昭和25年までのんびり進んできた時間が一気に飛びました。
あまり驚かなかったのは予告があったからかもしれません。

何はともあれここから新章スタート。
アバンで紀夫にかかってきた電話は、大急小山からのものでした。

キアリスの製品を注文したのはなんと「皇太子御夫妻」。



これね、『べっぴんさん』の中で一番楽しみにしていた史実なんです。
昭和35年当時の「皇太子御夫妻」というと、もちろん今の天皇陛下と美智子妃殿下のこと。
キアリスのモデル・ファミリアが皇室御用達に認定されたのは有名な話ですが、いやまあ……


これドラマでやるのは難しいよね……

見てみたいけど……

ぶっちゃけ難しいよね……

だってさ、画がどうしようもないでしょう。

映像の世紀スタイルで当時の御成婚のときのお写真を使うことも出来なくないだろうけど、これ、ドキュメンタリーじゃなくてドラマだからなあ……

天皇が登場するドラマ、記憶に新しいところだと、2015年の「天皇の料理番」の昭和天皇もラストにシルエット。
映画ならちょくちょくありますね。
「日本の一番長い日」の本木雅弘の昭和天皇もよく覚えてます。
イッセー尾形の「太陽」は強烈だった。

しかし朝ドラ。

登場人物として皇室が出てくる朝ドラ…?
ましてや存命の方だと、あるんですかね。

わかりませんが、この皇室御用達のくだりは「エピソードちょびっと出しただけでもとりあえずよく頑張った!」と。



紀夫ポーズの汎用性高いwww




●それぞれの成長


10年という月日の中で、子どもたちはそのまんまの感じで育ちました。



すみれにそっくりのさくらを演じるのは井頭愛海。


まあ可愛らしい感じなんですが、悩める思春期の様子。
靴が狭くなったことに気づいてもらえず寂しい思いを言えずにいたさくらそのまんま。

すみれと紀夫も34歳になっているのですが、このときは上記の皇室御用達でキアリスが全国に知られるところとなり大忙し。

「いい子に育ってくれてよかった」
「さくらがいるから家を空けられる」

こ れ は 疲 れ る な あ ……

すみれと紀夫がさくらのこと溺愛してるのはわかるんですが、この『いい子攻撃』はさくらにとっては居心地が悪い。
抗ってみようと白紙回答を試みるのですが挫折。

靴が狭くなったことを言えなかったさくらがそのまんま大きくなっちゃった感じ。
真面目だからこそ隠し事が増えていく。



噂の『奇跡の29歳』、君ちゃんちの一人息子・健ちゃんを演じるのは古川雄輝。
噂のイケメン。

まあまあイケメンに育ってしまわれて。
琴子さんに溺愛されて育った元祖いい子の健ちゃんは、またいい子をそのまんまにしたような高校生。

さくらに惚れてるようなのですが、さてどうなるのやら。



もうひとり。
若い頃の良子ちゃんを「どうしたらいいのかわからない」と悩ませていたやんちゃボーイ、龍ちゃん。
演じるのは森永悠希。

龍ちゃん大きくなりました…!
ちょっと見た目はファンキーだけど、立派に高校生やってる…!!

というより、良子ちゃんと勝ニさんがしっかりお母さんやってるのがよかったですね。


龍ちゃんはテニスラケットを持ち歩いているんですが、これミッチーブームの影響ガンガンに受けてるもなんとも微笑ましい。



「不思議なもんでなあ、ずっと一緒におると命が吹き込まれたような気がするんや」

龍ちゃんにとって、テニスラケットは幸せな気分になれるべっぴんなんだろうな。

そんな龍ちゃんのお母さん・良子ちゃんはさくらや健ちゃんを見て「ちゃんとしてる」と言うのですが、多分一番ちゃんとしてるのは龍ちゃん。
お互いに好きなこと言い合って、文句も言うけれど、お互いちゃんと認めてる。

むしろ健太郎やさくらのように親に遠慮して甘えたい気持を押し殺すタイプは、見た目は「ちゃんとしてる」けど、反動が怖いですね。

さくら、健ちゃん、龍ちゃん。
新しい時代で新しい世代が泣いたり笑ったり。
彼らはどんなべっぴんを見出すのか、すみれたちはどう関わっていくのか。



●大人の世界へ


さくらと健ちゃん、龍ちゃんに誘われてジャズ喫茶に行ってみました。
そこにいたのはかっこよくドラムを演奏する次郎(林遣都)さんと、大人びた五月(久保田紗友)でした。





というか久保田紗友と林遣都が朝ドラ初出演ってのが地味に驚き。
林遣都は『精霊の守り人』、久保田紗友は『インディゴの恋人』『喧騒の街、静かな海』で印象に残る芝居をしているんですが、これまで朝ドラはなかったんですね。

彼らの奏でる大人の世界の魅力に、一瞬で魅せられたのはさくら。
「いい子じゃない」
「子供扱いしないで」
と言っていたさくらなので至極当然でしょう。

ましてやイケメンで賢いけど正論まみれな健ちゃん。
子供らしさの残る龍ちゃんを見慣れていたさくらにとっては、ちょいワルな感じで真剣にドラム叩いて林遣都に惹かれるの、わからなくもない。

そういう年頃なんだよなあ。
「夜遅くなる」「どこ行くの?」「友達んちで勉強してくる」っね見え見えの大嘘をつくような年頃。
型にはまったいい子でいたけれど、でも今はみ出てみたい。

子育てあるある、田舎の正月あるある、ビジネス英語あるあるなどが登場しましたが。
ここにきて思春期あるある。

五月と意気投合したさくらはナイトクラブに誘われます。
新しいドレス、普段したことのないヘアメイク。
初めてはくヒールの靴。



この週、前半に麻田さんの靴の話があったせいでしょうか。
さくらが新しいステージに踏み入れる靴がなんとも切なく見えてしまいました。
麻田さんに靴作って欲しいと頼んだ時の気持ちや、麻田さんに手を振った時の気持ちを思い出してほしいけど……



●あの男が帰ってきた


ナイトクラブには若者が集まります。
その中で視線を集めていたのは、あの栄輔でした。



まださくらも幼かった頃。
長く帰らない紀夫のかわりにすみれを支えていた栄輔。
さくらも栄輔によく懐いていました。



あれから時間が経ち、姿を消したと思われた栄輔が帰ってきた。
AISという若者向けブランドを立ち上げて。
(AISのモデルはVANS)

栄輔はさくらと五月の話を聞いているうちに、この背伸びして粧し込んだ女の子が「坂東すみれのムスメ・坂東さくら」であると気づくのですが。
さくらは栄輔のことを覚えていない様子。

「気いつけて帰れよ」

さくらに小さくそう言って去る栄輔は見ていて辛かったですね……



●流れる時代


昭和35年にはいり、物語の雰囲気がガラリと変わりました。
これまではキアリスの躍進にあわせて、『職人の手仕事』『ハンドメイド』などが描かれていましたが、少し色が違う様子。

でも一貫して描かれているのは、『時代』だと思います。
時間がしっかり流れている。







空襲の被害から立ち直り、賑わいを取り戻した神戸の街並み。
生き甲斐をみつけて健康を取り戻した君ちゃん。
歩き方に老いを感じる喜代さん。
おっとりしたすみれが早口のマダムになって。
成長したさくらは思春期で悩むようになり。

手仕事、キアリスの躍進、子供たちの成長という物語の後ろで「変わりゆく時代」を感じます。
激動の時代だなあ。




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