恩田陸さん、直木賞受賞おめでとうございます。
ということで15年くらい前に書いてあった恩田陸作品のレビューを、再掲しちゃおうと思います。
関連リンク
・恩田陸『三月は深き紅の淵を』とはなんだったのか。
・3分でわかる恩田陸作品の歩き方
■『六番目の小夜子』
これは有名ですよね。
新潮社の第3回ファンタジーノベル大賞最終選考まで残った恩田陸のデビュー作。
2000年にNHKでドラマ化もされました。
思えばここがはじまり。
とある地方の高校にやってきたのは美しく謎めいた転校生。
高校に受け継がれる奇妙なゲーム。
「3年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が、見えざる手によって選ばれる」。
「そして今年は、六番目のサヨコが誕生する年だった」
とまあ、あらすじだけ読んだら「??」なのですが、ページをめくる手が止まらない。
初めて読んだのは中学生の時でした。
中学生高校生の時って「自分は周りとは違う」と思いながらも、結局は学校という共同体の中で生きている。
その共同体の不気味さ、恐怖。
惹きつけられるように読んでしまいました。
文化祭のシーンは本当に怖かったです。
エンディングはわりとふわっとしてるんですが、私個人としては好きですね。
というよりも「ここからはじまるんだ」と感じました。
登場人物たちの人生はこの先も続いていく。
物語は終わらない、と。
■『球形の季節』
終わらないデビュー作『六番目の小夜子』の世界観を見事に継承した作品がこれ。
小夜子では高校が舞台だったけれど、今度は町にスケールアップ。
それでも高校生が主人公、地方都市が舞台というのは一貫している。
その貫きが心地よいですね。
東北の地方都市・谷津。
そこにある4つの高校で奇妙な噂が流れ始めた。
「5月17日 如月山でエンドウさんという子が宇宙人に連れて行かれる」
噂は爆発的に広まり、金平糖を使った密かなおまじないが流行る。
みのりや弘範は噂の源を突き止めようと調査を進めるが――。
モダンホラーといったあたりでしょうか。
町、学校というのは魔力を持っている。
恩田作品とりわけ高校生シリーズにはそんな魔力をつくづく実感しますね。
地方都市に住んでると気づかないけれど、いや地方都市は怖い。
「閉じた世界の怖さ」を実感してしまう。
それから「思春期世界の閉鎖性」も。
その怖さが地方都市や思春期の「ノスタルジー」にサンドイッチされているから怖さ倍増です。
サブタイトルにそれぞれの章で使ってる一節を用いているのが好きです。
「プールのむきだしの底は死んだ魚の腹のよう」だとか。
表現自体も見事だけれど、この一節を選り抜いたセンスが圧巻。
■『黒と茶の幻想』
学生時代の同級生の利枝子、彰彦、蒔生、節子。
四人の男女が中年になり、Y島への旅が企画されることになった。
旅のテーマは「美しい人生の謎」について。
それなりに幸せな家庭を営み社会的地位を築いている4人だが、ある1人の女性の名前が登場したことにより、それぞれ隠し持っていた疑惑が浮かび上がる。
中年男女のおしゃべりといってはおしまいだけれども、それがこんなに面白いとは。
非日常的な会話と、美しい情景描写の羅列。
小難しい文学作品ではないけれど、美しい日本語で描かれる物語を楽しむ作品です。
4人の他人称他視点で話は進むのですが、最後に「節子」を持ってきたのは実に見事。
揺らぎがない彼女が、淡々と自分の謎の答えを見つけていく。その姿に思わず涙がこぼれます。
■『図書室の海』
『六番目の小夜子』や『麦の海に沈む果実』、『夜のピクニック』など人気作品の前日譚や番外編を含む短編集です。
・「ピクニックの準備」……『夜のピクニック』予告編。
・「図書室の海」……『六番目の小夜子』番外編(秋の姉の話)
・「睡蓮」……『麦の海の底に沈む果実』番外編(理瀬の幼少期)
これらの関連作品だけでも読みごたえ抜群なのですが、他のもね面白いんですよ。
「イサオ・オサリヴァンを探して」。
シリアスな舞台設定ながら、イサオのカリスマ性というのがよく表現されていると思います。
『木曜組曲』の時子や『不安な童話』の倫子といい、恩田さんはカリスマを描くのが上手だ。続編の『グリーンスリーヴス』を期待。
「茶色の小壜」。
あのアメリカ民謡の明るい曲調を流しながら読む「違和感」を味わいたい。
下手なB級ホラーなんかよりずっと怖い。その怖さは人称が転換する瞬間に最高潮に達します。
一番好きなのは「国境の南」。
ノスタルジー感の中に潜む怖さ。
日常の怖さ。
これも恩田作品の味のひとつ。
とにかくジャンルのクロスオーバーをまざまざと見せ付けられます。
一つの短編の中でも、この『図書室の海』の中でも。
恩田さんの物語世界は一つにつながってるんじゃないかしら。
■『劫尽童女』
恩田作品中ではかなりの異色の部類に入るんじゃないんでしょうか。
秘密組織『ZOO』の遺伝子操作研究に携わった伊勢崎博士。
博士と「その子ども」の逃亡劇です。
団地のシーンは見事!
緊迫感が直に心臓に伝わってきました。
次々とページをめくってしまうのだが、最後にはあっけない幕切れ。
余韻という余韻はなく、今まで恩田作品の余韻を楽しんでいた私としては、どことなく物足りなさを感じてしまいました。
他の作品と比べれば相対的に低評価になってしまうのだけれど、様々な手法やジャンルに挑戦していく作者の筆力はいつ見ても本当に見事。
■『不安な童話』
「あなたは母の生まれ変わりです」
ある特技を持った女性が主人公が、遺作展で「殺害された美人画家の生まれ変わり」だと知る。
その息子と共に彼女の遺言を実行しているうちに、奇妙な事件に巻き込まれていく、というホラー寄りの話。
恩田作品の中で、珍しく東京が舞台になってる作品。
若くして殺害された女流画家・倫子の四点の遺作を故人の遺志に従って四人の人物に届ける話です。
実は絵に付けられたタイトルに実は重要な伏線があったりする。
恩田さんの描くミステリーは、最後が曖昧なことが多いです。
でもそれはいわゆる風呂敷広げっぱなしの居心地の悪い曖昧さではなく、「ご想像にお任せします」と首筋撫でられるような不気味な怖さです。
『不安な童話』も結末では「なんでこの人が?」とビックリさせられるけれど、それを心地よく感じてしまいます。
柔らかな余韻が残るという点では、やはり奇妙なノスタルジーが漂っているんでしょうね。
博物学博士・泰山先生のキャラクターは好きだなあ。
■『まひるの月を追いかけて』
──異母兄が奈良で消息を絶った。たったの二度しか会ったことがない兄の彼女に誘われて、私は研吾を捜す旅に出る。
『まひるの月を追いかけて』は、奈良の旅物語。
ミステリーロードノベルです。
ロードムービーでもなく、ただのミステリーノベルでもなく。
奈良、万葉の里、橘寺に行きたくなります。
で、行っちゃったんですよ。
この一冊を片手に。
→09冬、今ふたたびの奈良へ
小説の中そのまんまの風景が広がっていて、いやむしろ目の前の風景が小説の中に入っていて驚きました。
■『Q&A』
ストーリーは質問者と回答者というインタビュー方式で進んでいきます。
あるショッピングモールで起こった事故。
「そのとき」客たちはパニックを起こし、出口に殺到する。
なぜパニックが起きたのか。
そのとき何が起きたのか。
生き残った少女は何を見たのか。
明石花火大会歩道橋事故を思い出す描写に、思わずゾゾゾと。
しばらくエスカレーター乗るの怖くなりました。
■『光の帝国-常野物語─』
連作短編。
「常野の一族」と呼ばれる人たちが登場します。
超能力を持ちながら、ひっそりと平和を愛し穏やかに生きる人々、常野一族。
それぞれが完結していながらも、一貫のつながりをも見せています。
当然恩田さんらしいホラーも登場するのが「オセロゲーム」。
これは怖い。
いつ「裏返される」のか。
号泣したのが表題作「光の帝国」のクライマックス。
小説ではめったに泣かないんですが、これだけは号泣。
ツル先生がきっとどこかにいるんじゃないかって。
短編集でサクサク読めるので、いいから手に取って読んでみろください。
■『ライオンハート』
『エリザベス』と『エドワード』の時空を超えた愛の話。
切なさと優しさが同居してるような恋愛小説。
オマージュされたと公言しているように、テーマ自体は頗る古典的です。
けれどもついつい「今回は2人会えるかなあ」ってやきもき。
なんでこの長い夢が始まったのか?っていう疑問もうまく解けたし。
舞台が欧米だけあって、世界史の勉強にもなった。
『いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ』
エリザベスがエドワードに会う度に言う言葉。
いつかこんなことを言えるような恋愛をしてみたいと思わせてくれる恋愛小説です。
改めまして恩田陸先生、おめでとうございます!
あの日、「ネバーランド」を読んだ友人は恩田陸の沼にずぶずぶはまっていった……
— ゆずず (@yuzu0905) 2017年1月19日
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