春が来ると旅に出たくなる。
スニーカーに汚れたジーンズ。
いつものTシャツとパーカー。
ポケットに定期入れとウォークマン、小銭とケータイをほおりこんで。
上り線で待っていると湘南新宿ラインがかけこんできた。
小田原行き。
――海にでもいこう。
決めた!
今日の散歩は根府川の海岸線。
++++++++++++++++++++++++++++
小田原行きに揺られること1時間強。
埼玉を抜けて東京を縦断し神奈川に入る。
そもそも前橋始発で小田原まで行っちゃうんだから、乗車距離だとか時間はとんでもないことになっている。
上野発札幌行きだとかそれくらいのレベル。
――それにしても。
都会はどこも似たような風景だなんて誰が言えたんだろう。
いつもの渋谷も、昨日歩いた青山や外苑、西新宿。
川崎や横浜だって全然違うじゃないか。
降りていく人も乗ってくる人も、入れ替わる空気も。
少しずつ違うと感じた。
少しずつ。何かが変わっていく。
そんな旅人の気分。
平塚で熱海行きのカボチャに乗り換える。
『サヨナラ113系』のヘッドマーク。
──そういえば、113系撤退だっけ。
新型車両への移行がすすむ首都圏の列車。
東海道線の象徴だったオレンジと緑の113系。
最後の勇姿を捉えようと、横浜あたりから沿線にカメラが目立ち始めていた。
──こうやって時代は変わっていくのね。
+++++++++++++++++++++++++++
根府川の駅は相変わらずそこにいた。
関東の駅100選、海が見える駅。
無人の改札をくぐり、いざ海へ。
根府川は坂の町。
背後に山が切り立っていて、海に行くまでには相当急な坂を下りなければいけない。
途中ドーベルマンがいたり。
道ならぬ道を歩いたり。
時々花が咲いていて見とれたり。
そんなちょっとしたロールプレイング。
赤い東海道線の陸橋をくぐれば、潮の香りがしてきた。
波の音がすぐ近くに迫っている。
──海だ!!
普段見慣れていればこんなに感動しないと思う。
沖縄に帰ればイヤでも見なきゃいけない海だけど、日常生活をしている限り目にすることはない。
でっかい。
海はでっかい。
とにかくでっかい。
海とちっぽけな私。
歩道がないくせに車の量とスピードがハンパない真鶴道路。
ここを横切るのも一苦労。
右からこないと思ったら、あ、左から来てる・・・。
あ、右からもきちゃった・・・。
空気よめよ、わたらせてくれよ。
海岸に出るまでのちょっとした我慢。
++++++++++++++++++++++++++++
くさりかけた階段を下りると、岩の海岸にたどり着く。
慣れた足取りで岩の上を歩く。
──海だ!!
何度見てもたまらない、この太平洋。
誰もいない春の海岸。
ザッパーン、ザッパーンと、波の音が遠くから近くから聞こえる。
ジャラジャラジャラ・・・波が岩を連れて行く音。
沖縄の砂浜では絶対に聞けない音に、しばし耳を傾ける。
下手な耳掃除よりも気持ちがいい。
波。
水平線。
半島。
ずっと前からそこにある『当たり前』を、今眺める。
──多分私も『当たり前』の一つなんだろうな。
──何に悩んでようと『だからどうしたの?当たり前でしょ、人間なんだから』って。
そうやって、ずっと。
ずっと自分に言い聞かせてきた。
──歩いてきた道は間違いじゃない。
波が大きくうなずいた。
そうだよ。間違いじゃないよ。
+++++++++++++++++++++++++++
見回してみるとテトラポットがあった。
──よし。
ウォークマンを少しいじる。
aiko『ボーイフレンド』。
テトラポットのぼって てっぺん先睨んで
宇宙に靴飛ばそう
あなたがあたしの頬にほおずりすると
二人の時間は止まる 好きよ ボーイフレンド
「あ~~テトラポットのぼって~~♪」
さすがに靴を飛ばせはしなかったけれど。
テトラポットの一番高いところにのぼって歌っていたら、体の中からスッキリ感がしみてきた。
──ちょっと私変な人かなあ。
──でもいいや。
──いいもんだ。
「2人の時間はとまる~♪♪」
海に向かって色々と叫んでみた。
叫びは言葉になっていなかった。
やっぱり言葉にはならなかった。
波が声をかきけす。
──虹だ!!!
高い波しぶきの向こうに、七色の虹。
つかもうと手を伸ばしてみたけれど、全然届かなかった。
近づいてみても、距離は縮まらなかった。
すぐに消える。
また出来る。
それもすぐに消える。
でもまた──。
『当たり前』の繰り返しをじっとながめていた。
++++++++++++++++++++++++
それからいつもの道を帰る。
山道を登ると少し息が切れた。
「ふーーーっ」
階段を上がったところにネコがいて、大きなあくびをしていた。
「春だねぇ」
もう春だ。
季節が変わっていく。
──なんだっけな。
──幸せになるコツは、季節の移り変わりを感じることって。
──いいね。
──幸せだわ。
「幸せだー・・・」
呟いてみると、幸せが沁みてきた。
++++++++++++++++++++++++++++
E231系に乗って帰路につく。
明日のこと、来週のこと、来月のこと。
いろんなことを考えていたら、いつのまにか地元の駅に着いていた。
根府川の海旅、これにて終了。
スニーカーに汚れたジーンズ。
いつものTシャツとパーカー。
ポケットに定期入れとウォークマン、小銭とケータイをほおりこんで。
上り線で待っていると湘南新宿ラインがかけこんできた。
小田原行き。
――海にでもいこう。
決めた!
今日の散歩は根府川の海岸線。
++++++++++++++++++++++++++++
小田原行きに揺られること1時間強。
埼玉を抜けて東京を縦断し神奈川に入る。
そもそも前橋始発で小田原まで行っちゃうんだから、乗車距離だとか時間はとんでもないことになっている。
上野発札幌行きだとかそれくらいのレベル。
――それにしても。
都会はどこも似たような風景だなんて誰が言えたんだろう。
いつもの渋谷も、昨日歩いた青山や外苑、西新宿。
川崎や横浜だって全然違うじゃないか。
降りていく人も乗ってくる人も、入れ替わる空気も。
少しずつ違うと感じた。
少しずつ。何かが変わっていく。
そんな旅人の気分。
平塚で熱海行きのカボチャに乗り換える。
『サヨナラ113系』のヘッドマーク。
──そういえば、113系撤退だっけ。
新型車両への移行がすすむ首都圏の列車。
東海道線の象徴だったオレンジと緑の113系。
最後の勇姿を捉えようと、横浜あたりから沿線にカメラが目立ち始めていた。
──こうやって時代は変わっていくのね。
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根府川の駅は相変わらずそこにいた。
関東の駅100選、海が見える駅。
無人の改札をくぐり、いざ海へ。
根府川は坂の町。
背後に山が切り立っていて、海に行くまでには相当急な坂を下りなければいけない。
途中ドーベルマンがいたり。
道ならぬ道を歩いたり。
時々花が咲いていて見とれたり。
そんなちょっとしたロールプレイング。
赤い東海道線の陸橋をくぐれば、潮の香りがしてきた。
波の音がすぐ近くに迫っている。
──海だ!!
普段見慣れていればこんなに感動しないと思う。
沖縄に帰ればイヤでも見なきゃいけない海だけど、日常生活をしている限り目にすることはない。
でっかい。
海はでっかい。
とにかくでっかい。
海とちっぽけな私。
歩道がないくせに車の量とスピードがハンパない真鶴道路。
ここを横切るのも一苦労。
右からこないと思ったら、あ、左から来てる・・・。
あ、右からもきちゃった・・・。
空気よめよ、わたらせてくれよ。
海岸に出るまでのちょっとした我慢。
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くさりかけた階段を下りると、岩の海岸にたどり着く。
慣れた足取りで岩の上を歩く。
──海だ!!
何度見てもたまらない、この太平洋。
誰もいない春の海岸。
ザッパーン、ザッパーンと、波の音が遠くから近くから聞こえる。
ジャラジャラジャラ・・・波が岩を連れて行く音。
沖縄の砂浜では絶対に聞けない音に、しばし耳を傾ける。
下手な耳掃除よりも気持ちがいい。
波。
水平線。
半島。
ずっと前からそこにある『当たり前』を、今眺める。
──多分私も『当たり前』の一つなんだろうな。
──何に悩んでようと『だからどうしたの?当たり前でしょ、人間なんだから』って。
そうやって、ずっと。
ずっと自分に言い聞かせてきた。
──歩いてきた道は間違いじゃない。
波が大きくうなずいた。
そうだよ。間違いじゃないよ。
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見回してみるとテトラポットがあった。
──よし。
ウォークマンを少しいじる。
aiko『ボーイフレンド』。
テトラポットのぼって てっぺん先睨んで
宇宙に靴飛ばそう
あなたがあたしの頬にほおずりすると
二人の時間は止まる 好きよ ボーイフレンド
「あ~~テトラポットのぼって~~♪」
さすがに靴を飛ばせはしなかったけれど。
テトラポットの一番高いところにのぼって歌っていたら、体の中からスッキリ感がしみてきた。
──ちょっと私変な人かなあ。
──でもいいや。
──いいもんだ。
「2人の時間はとまる~♪♪」
海に向かって色々と叫んでみた。
叫びは言葉になっていなかった。
やっぱり言葉にはならなかった。
波が声をかきけす。
──虹だ!!!
高い波しぶきの向こうに、七色の虹。
つかもうと手を伸ばしてみたけれど、全然届かなかった。
近づいてみても、距離は縮まらなかった。
すぐに消える。
また出来る。
それもすぐに消える。
でもまた──。
『当たり前』の繰り返しをじっとながめていた。
++++++++++++++++++++++++
それからいつもの道を帰る。
山道を登ると少し息が切れた。
「ふーーーっ」
階段を上がったところにネコがいて、大きなあくびをしていた。
「春だねぇ」
もう春だ。
季節が変わっていく。
──なんだっけな。
──幸せになるコツは、季節の移り変わりを感じることって。
──いいね。
──幸せだわ。
「幸せだー・・・」
呟いてみると、幸せが沁みてきた。
++++++++++++++++++++++++++++
E231系に乗って帰路につく。
明日のこと、来週のこと、来月のこと。
いろんなことを考えていたら、いつのまにか地元の駅に着いていた。
根府川の海旅、これにて終了。
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