妄想ジャンキー。202x

人生はネタだらけ、と書き続けてはや20年以上が経ちました。

テトラポット登って、てっぺん先睨んで

2006-03-11 18:29:56 | 日記
春が来ると旅に出たくなる。

スニーカーに汚れたジーンズ。
いつものTシャツとパーカー。
ポケットに定期入れとウォークマン、小銭とケータイをほおりこんで。

上り線で待っていると湘南新宿ラインがかけこんできた。
小田原行き。

――海にでもいこう。

決めた!
今日の散歩は根府川の海岸線。

++++++++++++++++++++++++++++

小田原行きに揺られること1時間強。
埼玉を抜けて東京を縦断し神奈川に入る。
そもそも前橋始発で小田原まで行っちゃうんだから、乗車距離だとか時間はとんでもないことになっている。
上野発札幌行きだとかそれくらいのレベル。

――それにしても。

都会はどこも似たような風景だなんて誰が言えたんだろう。
いつもの渋谷も、昨日歩いた青山や外苑、西新宿。
川崎や横浜だって全然違うじゃないか。
降りていく人も乗ってくる人も、入れ替わる空気も。
少しずつ違うと感じた。
少しずつ。何かが変わっていく。

そんな旅人の気分。


平塚で熱海行きのカボチャに乗り換える。
『サヨナラ113系』のヘッドマーク。

──そういえば、113系撤退だっけ。

新型車両への移行がすすむ首都圏の列車。
東海道線の象徴だったオレンジと緑の113系。

最後の勇姿を捉えようと、横浜あたりから沿線にカメラが目立ち始めていた。

──こうやって時代は変わっていくのね。

+++++++++++++++++++++++++++

根府川の駅は相変わらずそこにいた。
関東の駅100選、海が見える駅。
無人の改札をくぐり、いざ海へ。

根府川は坂の町。
背後に山が切り立っていて、海に行くまでには相当急な坂を下りなければいけない。

途中ドーベルマンがいたり。
道ならぬ道を歩いたり。
時々花が咲いていて見とれたり。
そんなちょっとしたロールプレイング。

赤い東海道線の陸橋をくぐれば、潮の香りがしてきた。
波の音がすぐ近くに迫っている。

──海だ!!

普段見慣れていればこんなに感動しないと思う。
沖縄に帰ればイヤでも見なきゃいけない海だけど、日常生活をしている限り目にすることはない。


でっかい。
海はでっかい。
とにかくでっかい。

海とちっぽけな私。


歩道がないくせに車の量とスピードがハンパない真鶴道路。
ここを横切るのも一苦労。

右からこないと思ったら、あ、左から来てる・・・。
あ、右からもきちゃった・・・。
空気よめよ、わたらせてくれよ。

海岸に出るまでのちょっとした我慢。

++++++++++++++++++++++++++++

くさりかけた階段を下りると、岩の海岸にたどり着く。
慣れた足取りで岩の上を歩く。


──海だ!!

何度見てもたまらない、この太平洋。

誰もいない春の海岸。
ザッパーン、ザッパーンと、波の音が遠くから近くから聞こえる。
ジャラジャラジャラ・・・波が岩を連れて行く音。

沖縄の砂浜では絶対に聞けない音に、しばし耳を傾ける。
下手な耳掃除よりも気持ちがいい。


波。
水平線。
半島。

ずっと前からそこにある『当たり前』を、今眺める。

──多分私も『当たり前』の一つなんだろうな。
──何に悩んでようと『だからどうしたの?当たり前でしょ、人間なんだから』って。

そうやって、ずっと。
ずっと自分に言い聞かせてきた。

──歩いてきた道は間違いじゃない。

波が大きくうなずいた。
そうだよ。間違いじゃないよ。

+++++++++++++++++++++++++++

見回してみるとテトラポットがあった。

──よし。

ウォークマンを少しいじる。
aiko『ボーイフレンド』。

テトラポットのぼって てっぺん先睨んで
宇宙に靴飛ばそう
あなたがあたしの頬にほおずりすると
二人の時間は止まる 好きよ ボーイフレンド



「あ~~テトラポットのぼって~~♪」

さすがに靴を飛ばせはしなかったけれど。
テトラポットの一番高いところにのぼって歌っていたら、体の中からスッキリ感がしみてきた。

──ちょっと私変な人かなあ。
──でもいいや。
──いいもんだ。

「2人の時間はとまる~♪♪」


海に向かって色々と叫んでみた。
叫びは言葉になっていなかった。
やっぱり言葉にはならなかった。

波が声をかきけす。

──虹だ!!!

高い波しぶきの向こうに、七色の虹。
つかもうと手を伸ばしてみたけれど、全然届かなかった。
近づいてみても、距離は縮まらなかった。

すぐに消える。
また出来る。
それもすぐに消える。
でもまた──。

『当たり前』の繰り返しをじっとながめていた。

++++++++++++++++++++++++

それからいつもの道を帰る。
山道を登ると少し息が切れた。

「ふーーーっ」

階段を上がったところにネコがいて、大きなあくびをしていた。

「春だねぇ」

もう春だ。
季節が変わっていく。

──なんだっけな。
──幸せになるコツは、季節の移り変わりを感じることって。
──いいね。
──幸せだわ。

「幸せだー・・・」

呟いてみると、幸せが沁みてきた。

++++++++++++++++++++++++++++

E231系に乗って帰路につく。

明日のこと、来週のこと、来月のこと。
いろんなことを考えていたら、いつのまにか地元の駅に着いていた。

根府川の海旅、これにて終了。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 自転車 | トップ | 都電に乗って飛鳥山散歩。 »

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事