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『べっぴんさん』3週その1.こじょうちゃんとの決別

2016-10-21 22:27:29 | 朝ドラの感想
2016年後期BK朝ドラ『べっぴんさん』の第3週のネタバレ感想。


プロローグの終わり。

後半はこちら。
『べっぴんさん』3週その2.前へ進め、歩いていけ




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●名倉死す


終戦を迎えました。
大阪の様子を見てきたゆりが見た光景は想像を絶するものでした。


「野上のお義父さんが亡くなってました」

これナレ死・セリフ死ではないと思うんですよ。
全部焼かれた光景、あまりの犠牲者の数。
義父の死。
遺体の確認も難しかったかもしれないし、その現実を受け入れられなかった。
それほどの混乱を『セリフで伝える死』という形で表していたのだと思います。


野上正蔵のモデル・尾上設蔵氏も、五十八から会社のことを引き受けたあと、戦中に病死しています。
佐々木営業部~レナウンをつくった男たち~




●すみれ、やらかす。


それから何カ月か経ち、実りの秋。
東京に向かった五十八がなかなか戻らない中、近江で暮らすすみれたち。
ある日すみれに声をかけた女性は、赤ちゃんを連れていて食料を恵んでほしいと言いました。



相談してみても、節子に冷たくあしらわれてしまうのですが。
すみれは節子と静子の目を盗み、サツマイモなどを女性に渡します。



しかしこの様子を見ていたのが静子。
すみれの頬を叩いて強く言いました。

 
「何してくれたん?畑仕事もろくにできへんくせに、都会育ちでノミに食われたこともないくせに、よその家の食べもん勝手に恵んで人助けか?」

うーーーん、とっても考えさせられる静子さん。

すみれ目線で言えば、目の前でしんどそうなお母さんと赤ちゃんをみて、さくらに重ねてしまって……で、わからなくもない。
かといってすみれのしたことがどうなのかと言うと、静子さんの言う通りのような気もする。

そりゃそうよ、農作業を繰り返して食糧を作っているのは坂東本家の人たち。
突然都会の神戸からやってきたお嬢様が、勝手に家の冷蔵庫から食料を人に恵んでる……って語弊のある書き方名のは承知の上ですが。

それは静子さんにしてみたら「おまえ何してんの?それ人助けのつもり?苦労したこともないくせに。いいとこどりしてんじゃねえよ偽善者ぁ」って怒ると思う。
(静子さんそこまで言ってない)




●静子さんが怒った理由


そんな静子さん、少し前を振り返ってみると。

 

最初にすみれが「女性と赤ちゃんに食糧を渡したい」と相談に来たとき、すぐには断らずに躊躇っている様子が見て取れます。
本当は静子さん、あげたかったんでしょう。
そんな一瞬の「……」を山村紅葉の姑さんが強く牽制してしまいます。


本当は困っている人たちに、食料を分けるべきだと考えている。

でも坂東本家の備蓄してある食糧は、嫁の静子が自由に扱えるものじゃない。
それを突然神戸からやってきたすみれが、動かしていく。

農作業の苦労も知らない、家の備蓄事情も知らない。
もっと言えば嫁姑事情も知らない、優しさを我慢する辛さも知らない。
何も知らないくせに何をしているんだ──が爆発して頬を叩いたのかと。


さすが元朝ドラヒロイン幼少期・ヒロインの娘・ヒロインと演じてきている三倉茉奈さん。
大変複雑で辛いながらもお見事でした。
(しかしここまできたら三倉姉妹に姑役までやってほしい、というか見たい)




しかしすみれも成長していない。
なかなかどうして甘い。
これは明美ちゃんにしたことと同じじゃないかと。


1週、明美ちゃんはクッキーを食べたいわけじゃなかった。
このあとの明美ちゃんがクッキージェノサイドをしたことと、苦虫をつぶすような表情で去っていったのをすみれは知りません。
明美ちゃんは侮辱されたと感じ、すみれは「満足した」。

今回も構造は同じ。
女性は「感謝した」て、すみれも「満足した」。
けれども、静子さんは「傷ついた」「許せない」。

恐らくすみれの脳裏には、クリスティーナにミルクをもらったときのことが過っているのでしょう。
あのときすみれは傷つくことはなかった。
だから「人に物をあげて傷つくはずがない」という前提があるのかもしれない。
人に物を与えるということがどういうことかをまだ理解していない。

ただ今回静子にビンタさせてことで、すみれの心の中の何かも変わったんじゃないかなと思います。
というか変わるきっかけになってほしい。

人に物を与えるという行為が、単なる自己満足で終わってしまってはいけないこと。
ひとつひとつ丁寧に作り上げ、もらった相手の気持ちも高めるものにすること。
それこそが母が残したタペストリー、刺繍箱、ウエディングドレスのような、『べっぴん』だということ。





しかしお見事です。
茉奈さんの動揺した表情もお見事でしたが、一瞥しただけで静子を黙らせる節子(山村紅葉)。
息子である肇が復員するのですが、嫁より先に抱き着いて離れようともしない。


この姑、絶対強い。



●長太郎おじさんの言うこともわからなくもないんだ


肇が復員したのち、長太郎おじさんが「出ていってほしい」と言いだしました。

「一生甘えられても困るんや。うちにはうちの家族がおるんだから」

叔父さんの言うことは辛辣だけども。
これもまた正論なんだよなあ……。

疎開で世話になるってまさか6人(五十八と忠さんは今はいないけど)も来るとは思いもしなかったんだろうし。
まさかここまで畑仕事出来ないとも予想していなかったんだろうし。
人に与えて恵んで当たり前精神じゃいくら備蓄があっても足りないだろうし。



いやあでももうちょっと、さくらがもう少し落ち着くまでいたほうがいいんじゃない。
ほらお父さんと忠さんが東京から帰って来たら状況かわるわけだし。

ああすみれ口数少ない!
そうそうおばあちゃん、おばあちゃんが止めて……と思いきや。



「じゃあ出ていきます」

……ゆり姉ちゃん、あなたそこは交渉しなさいよおぉ。。
(ああこれか、はなさんが言っていた「ゆりはしっかりしているんだけど」の部分)

ゆりのこの言動が、お嬢様・出来る女というプライドの高さ故なのか、あるいは精神的疲労故なのか、どちらもなのか。
それはわかりませんが、長太郎おじさんに刺さるものがあったようです。



「ぅぅわかったあ!!」

扇子をパタパタとせわしなく動かし、苦虫を噛み潰しているような喉の奥からの声。
本音は違うんだろうな、言い過ぎてしまっただけなんだろうな。



長太郎おじさんも節子さんも、静子さんも。
みんな誰だって悪者になんかなりたくない。
本当は助けたい。
でも守るべきものがあるから、そのためには悪者にならなきゃいけない。


「なんか感じ悪い」だった坂東本家をただのいびり、理不尽ないじめに描かないのがいい。
静子や長太郎の言い分には正当性を感じると同時に、そこまで言わなくても…と思わされる。
思いがそこにあるのを感じますし、
人が生きている。

これは意見が賛否両論分かれるところでしょう。
確かに細かいところだと思います。
それでも役者の表情を逃さずにひとつひとつ積み重ねていく。
こういうのもまた『丁寧』って言うのかなと思いました。





●潔だけ作画が違う


……とまあ見ていても非常にモヤモヤする14分間。

家が焼けた、会社も焼けた、街が焼けた。
外地で終戦を迎えた人はもう帰ってこれないかもしれない。
近江にはもういられない。

すみれとゆりの状況的にも「これからどうするの」と絶望感すら感じる14分間。


残り1分で、板チョコばらまきながら帰ってくる潔マジ潔。
おまえどこの作画が違うイケメン幼馴染枠だよおい( ゚д゚)


ほぼかっさらった形で復員を遂げたヒーロー潔。
問題はノ―リー紀夫の復員。
……まさか豚枠。




●戦争いろいろ




「沖縄は大変でしたやろ」ってトク子ばあちゃんから聞かれて、答えに困る潔。
チョコばらまいて明るく振舞ってるけどこの人も壮絶なものを見てきたんだと察します。

戦争の描き方(物語への組み入れ方)は作品によって色々。
このへんが昭和モノ朝ドラの興味深さのひとつかなと。




●名倉の野上お父さんよかった



「坂東営業部は五十八さんとはなさんから受け継いだ会社や。いつかは取り戻す。潔とわしとゆりさんで」

トク子ばあちゃんの語ったファミリーヒストリー。
坂東営業部は野上家に受け継がれて、ゆりと潔がまた受け継いでいく。

家を継ぐ・守る話は多くあるけど、会社を継ぐ話はなんだか珍しい。

ぼかされる背景、窓から差し込む黄色い光。
ここもまた印象に残る画面。野上のお父さんよかったです。

ゆりと潔の結婚のときに、その『生き様』や潔との関係性がしっかり描かれていたからでしょう。
そんなに多くないシーン数&早期退場でも、退場が惜しまれたんだろうなあと思うわけで。


 
思い出の中の社長は笑顔で。
(天使の輪っかつけた野上社長がこのあとはなさんと落ち合って、「じゃあ僕副音声やりますわ」っていう妄想が頭から抜けてくれない)




●再出発だ


大阪に戻ってもう一度一旗揚げる、神戸に戻って紀夫を待つ。
それぞれ再出発を決める中、おばあちゃんが長太郎おじさんのことに触れたのがよかった。



やけくそで出てくわけじゃない。
これからは地に足つけて生きていくんだ。



何よりおばあちゃんの表情が優しい。
いつでも帰ってこれる故郷になるといいな。



●検索 : バラック とは


 

それにしてもこの上流階級バラックよ。
ほぼ一軒家に近いんじゃないか。
さすが戦時下に晴着着ておせち料理食べていた坂東一家なだけある。

 
あと入り口!
森の奥の小人のおうち感があってとても素敵…!!




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●ロックンロール闇市


 

とと姉の闇市セットもなかなか豪華だったけど、こっちの闇市セットもなかなか。


潔のロックンロール。

五代くんかwww(→『あさが来た』まとめ.五代くんの名言迷言集【ファーストペンギン】 

 

アポロランプやホースゴムが健在する世界線。
闇市の元締めの手下に波岡の兄ちゃんいるかもしれないし、傘にてるてる坊主ぶら下げた陽気な照子がいるかもしれない。

BK小道具を目を皿のようにして探してしまう悪い癖……orz

ほらぁ、これ。
辛気臭い青マフラーじゃん。





●物を手放していく時代




戦後の経済的混乱に角度を向けたのもとても新鮮です。
というか『あさが来た』でもそうだったけど、お財布事情に触れていくのが結構攻めていますね。



2万円(現在の価値で約1000万円)以上の預金に財産税が課されるいうことになり。
「使えない下ろせないお金になんで税金はらうの?!」と窮地に立たされるすみれ。
しかしまあ預金残高よりも税金の方を気にする様子からして、やっぱり庶民ではない(良くも悪くも)。



配給受け取りにくるなんて不慣れ。
そもそも人から何がもらうこと自体が不慣れ。
明美ちゃんや静子さんの気持ちを知るとき、すみれはどんな表情をするんだろう。

預金残高はたんまりある。
上流階級バラックも建った。
さくらは高級おもちゃで遊ぶ。

それでも、明日食べるものがあるかわからない。



これまでは素敵な世界観を演出していた物たちが、逆に「これだけじゃ生きていけない」に変わるのはとても残酷でした。



●レナウン再興の道へ


五十八パパと忠さんが帰ってきました。
半年くらい時間が経っていたのですが、東京で進駐軍の取り調べを受けていたとのこと。

はなと作り上げた会社も、思い出の詰まったお屋敷も。
信頼していた野上も。
みんな失った。

五十八は近江にひっこむと言い出します。



ピントがぼやけて、周囲が意図的にぼかされて。
それはまるではなさんが泣いているようで。
丸まった五十八の背中が辛い。

まるで五十八さんだけがどこか違う世界に取り残されてるみたいで。


 
「誰に負けたんやろなわしは…何に負けたんやろな…」
「負けと決めるんはまだ早いんちゃいます?わしはゆりと坂東営業部を必ず復活させてみせます」


ふたりの父のため、戦地から帰った潔ならではの言葉が力強い。
坂東営業部は「レナウン」になれるのか、これは面白くなりそう。

五十八の傷の深さを思うと切ないけれど、それでも前を向いて歩いていく潔が頼もしい。



●昔の自分のままだったらやっていけない


闇市の裏路地、キャバレーの入る建物のそばにいたのはあの人でした。

「あんた…相変わらずノロノロトロトロしとんのやなぁ。女学校で一緒やった悦子様やないか!」

第1週、強烈なインパクトを残していった悦子様。
得意の英語力を生かして貿易会社で働きたい、と取り巻きたちに声高に語っていた悦子様。
手芸クラブの面々を見下しては「はしたない」と言われていた悦子様。

高西悦子が誰より強く生きている姿がそこにはありました。
自分自身で「悦子様やないか」と呼び、奮い立たせるその強さ。
おそらくゆりとすみれは持っていないものでしょうし、潔の生命力もまた違うものでしょう。



「昔の自分のまんまやったらやってかれへんわ。私の家族は死んだ。夫も戦死した。それでも生きていかなあかんねん。たった一人の娘のために」

戦争を目の当たりにして。
母として、同時に『悦子様』として誇り高く生きていくこと自立した女性の力強さ。


「ここに来るんは最後の最後やで」

戦後を生き抜いていくために水商売に転じる女性の姿は、これまでの作品でも多く描かれてきました。
それでも悦子様の姿からは惨めさや情けなさは感じない。
たとえ彼女がこの姿を望んでいなかったとしても、だとしても彼女は強い。

悦子様の「はしたなさ」が、がむしゃらに生き抜く生命力となったのでしょう。


悦子を演じるのは滝裕可里さん。
ウルトラマンシリーズなどにも出演されていますが、個人的に今なじみ深いのは『てるてる家族』のミドル春子。
スケートに夢中になっていた「桜の木のような可愛らしい女の子」が、素敵な女性となって画面に香水の甘ったるい匂いを漂わせている。
『てるてる家族』本放送から時間が経っているとはいえ、女優さんの進化とはかくも恐ろしい、と驚かされました。




●こじょうちゃんのままではいられない


とりあえず今日生き延びていく現金を、食べ物を手に入れるため、すみれは思い出の服や鞄を売りに出す決意を固めました。
とはいえどこへ売ったらいいものか。

すみれが頼ったのはゆりと潔だったのですが……


「働くしかない。すみれちゃんも自分の手ぇで仕事して自分の足で生きるんや」

厳しいことを言うけれど、貯金を取り崩す生活では明日が保証されるわけじゃない。
自分の手で仕事をして、自分の足で生きていかなければならない。
現実はそんなに甘くない。

「昔のようにこじょうちゃんのままではおられへんねんで」

いつまでもこじょうちゃんのままではいられない。

潔の「こじょうちゃん」が、すみれにこう響くとは何とも辛い現実。
悦子様が「昔の自分のままだったらやっていけない」と立ち上がる決意をしたように。

すみれがまず手放さなければいけないのは『こじょうちゃん』という自分。




●だってお金が必要だから、娘を守りたいから


しかし実際問題、変われ変われと言われて簡単に変わることが出来たら人生は容易いもの。
幼い頃の潔の言葉を反芻しながら、すみれが訪れたのはあさや靴店でした。

再会を喜ぶ麻田さんとすみれ。
その麻田さんの目の前にすみれが差し出したのは……


「この靴を売ってもらえないでしょうか?どなたかこの靴に足が合うお客さんに…」

亡き母の思いを継いであつらえたブライダルシューズ。
すみれが紀夫と共に生きていくことを誓ったブライダルシューズ。

悦子様、潔の言葉を経てすみれがまず売りに出すのが靴、というのがすみれらしい。
あの靴に足を入れたとき、魔法にかけらた夢のような幸せな時間がはじまっていました。(2週
『こじょうちゃん』と決別するために、売りに出すのは『思い出がたっぷり詰まった大好きな靴』。


しかしあさやさんは靴を売却することを断ります。

 
「これはすみれお嬢様のために、すみれお嬢様のためだけにあつらえたもんや。他の人に売るやなんて…堪忍してください」


「麻田さんが私のために精魂込めて作ってくれたこと忘れたわけやありません。ずっと大切にしていました。けど…そやけど…お金が必要なんです。さくらを食べさせるために…」


悦子や潔、あさやさんも生きるために必死なように。
自分も立ち上がらなければいけない。


靴の売却をあさやさんに頼むのはとても酷なことだけれど、あさやさんにしか託せないことでしょう。

靴が大切なことだなんて自分自身でわかっている。
思い出を切り売りしていかなければいけない、大好きなお母様の思いも捨てていかなければいけない。
そうしないと、生きていくことができない。



●だから、手と足を動かす


窮地に追い込まれたすみれでしたが、写真入れに気づいたあさやさんの一言で思わぬ方向に動き出します。


「この写真入れ、よろしいな」

あさやさんは「作ったらどないですやろ?」とすみれに持ちかけました。

単に売るんじゃない。
自分が作り出したものを売る。



あさやさんが写真入れを手に取ったとき、すみれが自分が作ったと話した時、ここで売るといいと提案した時。
すみれの背後の窓から光が射してきて。
光の入った画面がまるですみれの行く末を暗示しているようで。





いやそれにしても15分間の作りがうまい。
『こじょうちゃん』で、働くという発想も何もなかったすみれが悦子・潔・あさやさんらキーパーソンによって目覚めていく。

それでも突然の目覚めではなく、悦子様に「相変わらずトロい」と言われるようなすみれらしさを忘れずに
例えば何か物を売るにしてもまずは姉夫婦や知り合いを頼る姿。
例えばまずは思い出を切り売りする決意を固める姿。



そのラスト1分に希望が射して未来を示す。
この15分の使い方は実に秀逸だなあとうなりました。





後半はこちら。
『べっぴんさん』3週その2.前へ進め、歩いていけ



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