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職場に役立つ行動分析学②「"やる気"はラベル貼り」

2018-08-07 | 仕事

行動分析学は、心理学の一つでありながら「こころ」という領域を一切扱いません。

人間の行動に徹底的にフォーカスして「その行動の前後でどのような変化があるのか」を観察し分析することによって、その人の行動変容を導く学問です。

前回は、人は気持ちでは変わらないというお話でした。
それは、私たちの中に「人の行動は気持ち次第で変わる。」という思い込みがあるだけだと説明しました。
また、行動分析学では、人の行動を「死人テスト」で判断するというお話もしました。

今回は、「人の行動をもう少し具体的に考えてみましょう!」というお話です。

”やる気”とは、行動へのラベル貼り

職場でもよく聞こえるのが「あいつは、やる気がある(ない)」という表現です。
他にも「意思が強い(弱い)・気が大きい(小さい)・本気になる(なれない)」など、似たような表現を私たちはよく使います。
しかし、行動分析学的には、それらはみな行動そのものを指す表現ではありません。
つまり、「やる気がある」は様子を現すので行動ではないし、「やる気を出す」も行動とはみなしません。

なぜかと言うと、「やる気」とはある特定の行動につけられた名前(ラベル)だからです。
ある行動に対してラベルを貼るように別の名前をつけることをラベリングと呼びます。
他にも「意思が強い」や「気の小さい」なども、ある行動に対してのラベリングなので、それらは抽象的であり行動を説明する原因ではないということです。

例えば、”笑う”という行動が「やる気がある」とみなされる場合もあれば、”大きな声で話す”という行動がそうかもしれません。さらには、笑顔と大きな声がセットでなければ認めないというケースもあるかもしれません。
この様に考えると、そもそも「やる気のある行動」というのは、人によって定義が異なります。

何をもって”やる気”と認めるのかが人によって違うはずなのに、職場ではよく「○○君は、最近やる気がないな~、もっと頑張ってもらわないとね~」などと普通に使っていますよね。
そして言われた方も、「そうですね~、何かあったのかな?」などと違和感なく答えたりしています。
日常会話ではそれで事は足りますが、行動分析学的には、それでは不十分というより危険と考えます。

行動分析学では行動を説明する上でラベリングは扱いません。なぜなら、ラベリングをすることで、人は無意識のうちにその行動の原因を「こころ」に求めるようになるからです。
「やる気がないのは、心が弱いからだ!」などの精神論や根性論に陥てしまい、具体的な行動変容に辿り着かないからです。

具体性テストで、もっと行動に注目してみよう。

人の行動を変えようとする時は、まず行動を明確に定義する必要があります。その方法として、前回は”死人テスト”を紹介しましたが、今回は「具体性テスト」を紹介します。

具体性テストとは、ラベリングのような抽象的な行動に対して、改善べき具体的な行動とは何かを明らかにしてゆく手続きのことです。(イメージ:抽象的な表現 ⇒ 具体的な表現)
その改善すべき具体的な行動を「標的行動」と呼びます。(日常で使う”問題行動”と呼んでも構わないと思います)

行動をどれだけ具体化すべきかは状況によって異なりますが、一定の目安があります。
それは、その表現(言葉)を聞いて、自分以外の人間も同じような光景を連想できるかという目安と、ある光景を見て、他人も同じ行動を連想することができるかという目安です。

では、「やる気がある」に対して具体性テストをするとどうなるでしょうか?

実は、前述の「笑う」や「大きな声で話す」という行動がそれに当たります。つまり、何をもってやる気とみなすのかという行動であり、死人テストをクリアーした行動のことです。
「笑う・大きな声で話す」という表現(言葉)なら、先ほどの目安にも当てはまると思います。

他にもあるかもしれませんが。ここでは「笑う・大きな声で話す」を例に進めます。

つまり、「○○君は、最近やる気がないな~、もっと頑張ってもらわないとね~」という発言の裏には、そそもそも「笑う+大きな声=やる気」というその人なりの定義があり、「○○君が笑っていない、しかも声も小さい」という状態に遭遇したことで、そんな○○君の様子に「やる気がない」というラベリングをしたという仮説が成り立ちます。

さらに、そう言われた方も、「そう言えば○○君、最近笑わないね~」などと思っているので、「そうですね~、何かあったのかな?」と答えることが推測できます。

では、改善すべき行動(標的行動)とは何かというと、「笑う」と「大きな声で話す」という行動を増やす、あるいは強化するということになります。

そして、改善された行動は「よく笑う」「いつも笑っている」「常に笑顔」などと表現され、それが「やる気がある」というラベリングになるという訳です。

具体性テストは、様々な場面で応用できます。
参考:島宗理作「具体性テスト」
http://www.naruto-u.ac.jp/~rcse/s_gutaisei/

人の行動は変えることが出来る。

組織で働く私たちは、常に同僚や上司、顧客や仕入れ先との人間関係に晒されており、互いの意思の疎通が上手くゆかなかったり、理解し合えないという状況にいつでも遭遇します。
それもそのはず、みな主義主張も異なれば、趣味嗜好も違うからです。
「そんなことは当然分かっている」と言いながら、私たちは、自分にとって不都合な出来事や考え方に遭遇する度に、無意識に「こころ」で対処しようとして、むやみに傷ついたり、時には誹謗中傷もするのです。

しかし、そんな中で「死人テスト」や「具体性テスト」のことを知り、それらが使えるようになるだけでも、相手の「こころ」ではなく、行動に注目できるようになります。
行動にフォーカスし、その原理を知れば知るほど、「こころ」という目に見えないものから、「行動」という目に見える変化に、その原因を探ることが出来るようになり、人の見方も変わってゆきます。

人の性格や思想を変えることは、そうそう出来ないと思いますが、人の行動は変えることができ、組織も変えることができます。

次回は、行動の原理についてのお話しです。

参考文献
杉山尚子著「行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由 」
杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・リチャード・W・マロット共著「行動分析学」
舞田竜宣・杉山尚子共著「行動マネジメント 人と組織を変える方法論」