Nさん
なぜ今回ハマスが無謀で残虐な行為に出たのかという話ですね。
2023年10月10に、パレスチナ・ガザ地区を実効支配するハマスは、突然イスラエルとの境界を越えて大規模な戦闘作戦を決行しました。作戦名は「アルアクサの洪水」と言うそうです。
大量のミサイルをイスラエル領内に撃ち込むとともに、1000人以上の戦闘員がバイクやハングライダーで境界壁を越えて侵入し、老人、子どもを含む数百人の非戦闘員を殺害、100人以上の人質を拉致した模様です。
これに対してイスラエルも反撃。ガザ地区へミサイル攻撃を続け、また電気、水、食料、燃料等のあらゆる物流を遮断して完全に孤立させています。イスラエルでは挙国一致の臨時内閣が組閣され、数日以内に地上軍をガザに突入させるだろうと言われています。
すでに両勢力あわせて数千人の犠牲者が出る、大惨事となっています。
Nさんには言うまでもありませんが、パレスチナ問題には二千年以上の長い歴史があり、第二次世界大戦末期からの現代史においても極めて複雑で悲劇的な歴史的経緯が積み上がっています。ここでそこから説明するのは無理ですが、いずれにせよ、今回の戦争は起こるべくして起こった戦争だと言うしかありません。
ぼくが思うに今回の事態の直接的原因のひとつは、イスラエル国内政治の混乱でしょう。
長年イスラエルの首相として実権を握ってきたネタニヤフにはもはやイスラエルを率いるだけの力はありません。国民から信頼されていません。そこで彼が取った戦術は超極右勢力と手を組むことでした。その結果イスラエル史上最も右翼的な内閣が誕生し、これによりパレスチナ人やガザ地区への締め付けや攻撃が激化、今年は何度も衝突が起きてきました。
これに対して、ガザ地区の住民の中にも実効支配するハマスへの不満が溜まり、ハマス批判のデモも起きました。ハマスとしては何らかの対応を取らざるを得ない状況にありました。
もちろん、今回の作戦は、数年の時間を掛けて綿密に準備された作戦でしょうし、その背後にはイランの革命防衛軍が存在していると思われます。
その意味では、米トランプ政権が中東の政治的、軍事的バランスを壊してしまったという背景もあると思います。トランプはエルサレムをイスラエルの首都として認定し、イスラエルとUAE、バーレーン、モロッコ、スーダンとの国交正常化を仲介し、一方でイランとの核合意を破棄しました。
この結果、イランやパレスチナは加速度的に追いつめられる事態となり、その後のバイデン政権も、こうした政策を取り消すどころかトランプの中東政策を引継ぎ、今やイスラエルとサウジアラビアの国交正常化も近いと言われるまでになってしまいました。
つまりこれまで中東のイスラム諸国では、少なくともパレスチナ支持で一定の合意が形成されていたものが、ここに来てそれが壊れようとしているのです。
ハマスはそこに大きな不安を抱き、もはや誰も自分を味方してくれないという絶望感に陥り、玉砕戦略に出てしまったのかもしれません。
三つ目に言えることは、ロシアのウクライナ侵攻の影響です。
世界の目はウクライナに集中し、その他の紛争地、侵略行為に対する関心が薄れてしまいました。ミャンマーや香港で闘っている人々にとって、それは打撃であり、パレスチナ人、ハマスにとっても同様であったろうと思います。
そして米国や西側諸国はロシアの暴虐については非難し、こぞってウクライナへ大きな支援をしているのに、パレスチナ問題では、全く逆に侵略者であるイスラエルを支援し、被害者であるパレスチナ側をテロリストとして非難、否定しているという矛盾、ダブルスタンダードがはっきりしました。
こうした中で、パレスチナ、ハマスはもはや自力で戦い、血路を開く以外の方向性を失ってしまったのです。
ぼくは今回のハマスの非道な行為を支持するつもりはありません。
しかし、それと同時にこの悲劇の責任はハマスだけにあるのではなく、パレスチナを侵略し今なお追いつめ続けるイスラエルや、そのイスラエルを全面的に支援する米国をはじめとした西側の諸大国、パレスチナ問題を利用したり逆に目をつぶったりしているイランやサウジアラビアをはじめとした中東の諸大国、さらには国連安保理事会常任理事国としてあるまじき侵略戦争を起こして世界情勢を不安定化させたロシア、それを実質的に支えている中国など、世界中の国々の政府と政治家の責任であると考えます。
大国の身勝手な論理、自己中心的、自己保身的なあり方こそが、この事態を生んだのだと言うべきです。
ぼくには何の力もありませんが、それを糾弾し続けます。
もう力ある者の横暴はたくさんです。