今、自民党の作ったアニメ動画「教えて!ヒゲの隊長」が話題だ。もっとも話題になっているのは、それに対するカウンターのパロディー版である「ヒゲの隊長に教えてあげてみた」の方なのだが。
自民党のオリジナル版では、徴兵制の問題に触れかけたところで終わっていたことが疑問視されていたのだが、先日パート2が公開され、そこからの続きとなっている。
さて、カウンター版の方はネット上に多くの書き起こしが掲載されているが,オリジナルの方のテキストがなかなか見つからない。どういう立場であれ、やはりテキストでちゃんと確認しておくことは重要だと思う。そこでともかく自分で書き起こしをやってみた。いろいろ突っ込みどころがあるが、とりあえず今回は何も付け足さずにテキストだけを掲載しておく。何かの役に立ったら幸いだ。
なお、動画は以下の所にある。念のため。
教えて!ヒゲの隊長
http://www.youtube.com/watch?v=0YzSHNlSs9g
教えて!ヒゲの隊長 Part2 - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=CMZKitpe-nk
【あかりちゃん】ヒゲの隊長に教えてあげてみた
http://www.youtube.com/watch?v=L9WjGyo9AU8
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『教えて!ヒゲの隊長』
風の音。
砂漠をイメージした壁紙の中に国連部隊の兵士のように見える人影が薄く浮かび上がる。
タイトル画面
(男女の声)教えて! ヒゲの隊長ー。
電車の車内
女子高生あかりちゃんが座って本を読んでいる隣にヒゲの隊長が座る。
(ヒゲの隊長)あれっ あかりちゃん?
(あかり)あっ ヒゲの隊長さん! ナーイスタイミングゥ!
(隊)なに? ナイスタイミングって。
(あ)いま会いたい人ナンバーワンよ、隊長さん! だって、訊きたいことが、こんなに、こんなに、こーんなに、あるんですもの。
(隊)そりゃ大変だ。
(あ)じゃあ、ズバリ訊くわよ。日本は、戦争に巻き込まれちゃうの?
(隊)そんなことない。でも本気で心配なんだね。大事な問題だよね。政治を預かる私たちも真剣に考えているんだ。
(あ)ニュースでも平和安全ナントカって法律のことを言っているけど。
キャプション「平和安全法制」
キャプション「日本国民の命と平和な暮らしを守る法律」
(隊)平和安全法制のことだね。日本国民みんなの命と平和な暮らしを守る、そのための法律の整備だよ。あかりちゃんも知っているとおり、最近の日本を取り巻く状勢は、残念ながら決して安全とは言えなくなっているよね。
(あ)うん。ホント心配。
(隊)実際に日本にミサイルを向けている国があるの知ってる?
(あ)なんとなくは…。
(隊)もし現実にミサイルを撃ってきたらどうする?
(あ)えっ撃ってくるの? ムリムリ! 誰か守ってー!
(隊)そうだよね。私たちも守りたいと思っているんだ。他にも尖閣諸島でのトラブルとか知ってるでしょ。日本の領土、領空を守るために自衛隊の飛行機が緊急発進した回数は、なんと10年前の7倍になっているんだ。北朝鮮も核実験を繰り返しているし、最近はテロやサイバー攻撃もホントに深刻。私たち日本人もいろんな脅威にさらされているんだ。
(あ)やれやれ、物騒だねえ。
(隊)そこで問題なのは、今ある法律ではね、いくつか隙間があって万が一の事態に対応できないということなんだ。具体的には戦争が起きた国から日本人を避難させようとしてアメリカの船が運んでくれていても、その船を守ることができないんだ。あと日本に向けて発射されたミサイルを同盟国のアメリカの戦艦が撃ち落とそうとする。そのときその戦艦が攻撃されても何にも手助けができないんだ。おかしいよね。だって撃ち落としに失敗したら、日本にミサイルが飛んで来るのに。
キャプション「スキマ!」
(あ)わー恐ーい!
(隊)だから日本人の安全を守るため、いろいろな法律を点検して隙間を防ぐこと、そして協力し合って、日本を守ることが大事。そうすることで抑止力がさらに高まり、戦争を未然に防ぐ、それが平和安全法制の目的なんだ。
キャプション「スキマを防ぐ!」
キャプション「抑止力が高まり、戦争を未然に防ぐ」
(あ)隙間に物が挟まると虫歯になるしね。それと抑止力って言葉よく聞くけど。
キャプション「抑止力」
(隊)それはね。軽々しく日本を攻撃しようなんて思わせない力。相手を思いとどまらせることだね。抑止力が高まれば戦争が起きにくくなる。
キャプション「抑止力=戦争を起きにくくする力」
(あ)じゃあ抑止力があればいいのね。
(隊)ははん、そんなに簡単じゃないんだ。でも、何重にもそなえることは大事。アメリカとの同盟関係も強化するし、それだけでなく、アジアの国々や世界中の友好国と信頼関係を深める努力も一層大事になってくるよね。具体的には、積極的に国際社会の責任を果たすこと。どんな国もいまや一国だけで安全を守ることはできないよね。だから日本自身が国際社会の平和と繁栄に積極的に貢献をして信頼されるメンバーになることが必要なんだ。いろんな国々が国際社会の平和と安全のため汗を流している。日本も人道的な国際貢献の幅を広げたりして更に汗を流していくことが重要なんだよね。
キャプション「積極的に国際社会の責任を果たすこと」
キャプション「信頼されるメンバー」
(あ)自衛隊さんには頑張って欲しいね。
(隊)ついついみんな他人事みたいになっちゃうけど、政治家や自衛隊だけの話じゃないんだ。みんなで関心を持って正しく理解することが日本にとって一番大事だね。
(あ)うん、私も頑張るわ。…で、本当に戦争に巻き込まれたりしちゃわないわけ?
(隊)そんなことないから。徴兵制なんかも絶対にあり得ない。だって…。
キャプション「徴兵制」
(あ)あれっ、もう着いちゃった。もっと、もっと、もっと話を聞きたかったけど、続きはまたね、ヒゲの隊長さん!
(隊)ははっ、お手柔らかに。
あかり立ち上がって敬礼(?)する。
(あ)シーユーっ!
あかりドアの方に歩いて行く。
終わり
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『教えて!ヒゲの隊長 Part2』
風の音。
砂漠をイメージした壁紙の中に国連部隊の兵士のように見える人影が薄く浮かび上がる。
タイトル画面
(男女の声)教えて! ヒゲの隊長ー。
電車の車内
女子高生あかりちゃんが座って本を読んでいる隣にヒゲの隊長が座る。
(あ)あっー、ヒゲの隊長さん! またまたナーイスタイミングゥ!
(隊)やあ、あかりちゃん、また会ったね。
(あ)あれから他人ごとじゃいけないと思って色々見たり聞いたりしたけど、わからないことが、こんなに、こんなに、こーんなにあって、もうヒゲの隊長さん、一家に一台必要だと思ったわよ。
(隊)一家に一台? それじゃヒゲロボの隊長だな。
隊長がロボットに変身する。
(あ)じゃあ、今日も平和安全法制についてあれこれ訊くわね。覚悟して! …うふふっ。
隊長もとに戻る。
キャプション「Q.日本は近い将来、徴兵制になるの?」
(あ)じゃあこの前の続き。最初のお便りです。日本は徴兵制になるんですか。
(隊)えっ、誰から?
(あ)日本のみんなからよ。細かいことはあまり気にしないで。
(隊)ははん。ではお答えします。それは大きな大きな間違い。徴兵制は今の憲法では許されていないよ。そもそも最近では訓練されたプロしか扱えない装備がほとんどで、素人が戦闘機とか戦車を扱えると思う?
(あ)うーん、無理だと思うわ。
(隊)だから徴兵制を導入する意味は少なくなっているんだ。サミットに参加している先進7カ国はどこも徴兵制をやっていないよ。だから日本は憲法上も必要性からも徴兵制の国にはなりません。
キャプション「A.日本は徴兵制になりません!」
(あ)むりやり兵隊にされるのは嫌よね。私も絶対反対! では次の質問ね。憲法学者の先生たちが憲法違反だって言っているけど大丈夫なの。
キャプション「Q.平和安全法制は憲法違反なの?」
(隊)憲法学者の中にも憲法違反ではないと言う人、違反だと言う人、その両方がいて、違反だという人の中には自衛隊そのものが憲法違反だと言う人もいるくらい。
(あ)えーっ専門の先生たちでさえいろんな意見があるのに、どう考えたらいいの?
(隊)日本を取り巻く環境が厳しくなる中で、国民の命を守るための必要な自衛の措置はどこまでなの?とずーっと議論してきたんだ。そして、最高裁判所の判例の範囲内で国民を守るために集団的自衛権の一部を認める平和安全法制を作ったんだ。だから絶対に憲法違反じゃない。
キャプション「A.平和安全法制は憲法が定める範囲で制定!」
(あ)知らなかった。最高裁判所が認めた範囲なら安心ね。
(隊)武力行使や集団的自衛権のことばかり話題になるけど、まず大事なことは平和外交なんだ。自衛のためとは言え、自衛隊が武力の行使をしなくても良い国際環境を作る外交努力が一番だと思うよ。
(あ)うん、大事よね。
(隊)でも万が一の事態に備えて準備をしておかないといけないし、しっかり備えをしておけば、日本を攻撃しようとする国も自分も大きな被害が出るから攻撃を止めようと思うかもしれないよね。
キャプション「抑止力」
(あ)抑止力!
(隊)そのとおり! わかってきたね。でもそれでも攻撃を仕掛けてくる場合には国民を守るために自衛隊は対応しないといけないよね。
(あ)そりゃあちゃんと守ってもらわないと。でも、どういう場合に自衛隊って対応できるの?
キャプション「Q.自衛隊はどのような場合に出動するの?」
(隊)自衛隊が動けるのは国民を守るための必要な自衛の措置の範囲内に限られるから、今回の平和安全法制でも厳しい歯止めをかけているんだ。つまり、むやみに自衛隊を出すことはできない。武力を行使する場合も新三要件を満たして、しかも国会の承認が必要な仕組みにしているんだ。
キャプション「国民を守る為に自衛が必要なとき」
キャプション「新三要件を満たしている」
キャプション「国会の承認が必要」
(あ)新三要件? なんだか難しそうな話に聞こえるけど…
キャプション「新三要件」
(隊)そうかもしれないけど、大事だからよく聞いて。これから言う三つの条件にあてはまらない限り、自衛権は使えないんだ。まずひとつめ。どこかの国が日本を武力攻撃してきた場合。または日本と密接な関係にある国、たとえばアメリカなどに対して武力攻撃が発生したことで、日本国民の命や平和な暮らしが脅かされる明らかな危険がある場合に限るんだ。
キャプション「1.我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」
(あ)「日本が攻撃を受けた場合」というのはわかるけど、アメリカなどが武力攻撃を受けた場合っていうのは、たしか、このまえ会った時に教えてもらったわよね。
(隊)そうそう、紛争国から逃げる日本人を乗せたアメリカの輸送艦が攻撃を受けた場合のことだったね。とにかく日本人士(?)を守るためでなきゃ出動できない。それ以外の目的で他の国を守るために武力を使うことはできないんだ。
(あ)日本を守るためだけなのね。
(隊)ははん。では新三要件の二つ目。これを排除するために他に適当な手段が無いこと。何度も言っているけどね。
キャプション「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」
(あ)日本の武力行使は最後の手段よね。
(隊)そう、他って言うのは外交などあらゆる手段を尽くして他に手立てがないっていうこと。武力以外に日本の平和や日本人の安全を守ることができないっていう状態だ。そしてその場合の武力の行使も新三要件の三つ目、必要最小限の実力行使に止まるべきことと決められているんだ。必要最小限度ってことが大事。
キャプション「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」
(あ)うん、かなり理解できた気がする。でもね、そうは言っても武力の使用を許すとアメリカに頼まれて関係ない戦争に巻き込まれちゃうんじゃないかなぁ。
(隊)それはあり得ないよ。さっきも言ったとおり、日本が武力行使をするのは日本国民を守るために限るんだ。新たな日米合意の中にもはっきりと書き込まれているからね。そのことはアメリカも理解しているよ。かつての湾岸戦争やイラク戦争のような戦争の参加を要請された場合は必ず断ります。
(あ)そう、そこそこ! アメリカとその約束が無ければ、なーんでもありになっちゃうからね。じゃあ、最後の質問。PKOのヒゲの隊長さんだからこそわかる質問よ。実際に国際貢献する時にどんな苦労や問題があるか教えてほしいな。
キャプション「Q.今の法律だと国際貢献の際に問題があるの?」
(隊)ニュースでも話題になったので覚えている人も多いと思うんだけど、具体的にどういう問題かというと、派遣された自衛隊は任務や武器の使用が制限されているから自衛隊のキャンプ地近くの日本のNGOやマスコミの人たちから守ってほしいっと要請があっても駆けつけて守ることができない。おかしいでしょ? あと建設材料や援助物資とかの輸送団を護衛できないとか、他国軍の医療部隊に医療技術の手ほどきができないとか、もうホントに現場は大変なんだ。
(あ)国際貢献でしっかり成果を出すためにも、現場にいる隊員さんが危ない目にあったり、困っってしまう状況は問題ね。
(隊)だから今回の平和安全法制で現場の自衛隊が迷ったり困ったりしないようにしてあげて、隊員の安全を確保しながら更に力を発揮できるようにするんだよ。
(あ)あー、もう駅に着いちゃった。今日も隊長さんのヒゲのように濃いぃ時間だったわ。ヒゲの隊長さん、ありがとね。シーユーっ。
あかりドアの方に歩いて行く。
終わり