小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

元警察官の医者

2008-12-26 19:57:49 | 医学・病気
元警察官の医者

私は研修病院の初めに、女子急性期病棟に配置された。そこには、おおらかな医長と三年目のレジデントと二年目の研修医がいた。この二年目の研修医は、元、警察官で、理由は知らないが、医学部に入って医者になったのである。この人はやたら、女が好きで、きれいな女の患者が入院すると、全部とってしまった。そして、頼まれもしないのに、患者に自分のアパートの電話番号を教え、「困ったら、いつでも電話かけてきて」と平気で言っていた。これは、よくないのである。医者は患者とは、ある程度の距離をとることが必要なのである。あまり患者にちやほささせると患者の自立心を、かえって無くしてしまう。そして外来では、女を抱きしめる、という信じられない事までしていた。医長が、注意しても、彼は、「今はその時」と言ってもっともらしい事を言っていた。そして、「今はその時」と言いなからら、半年たっても、一年たっても、抱きつづけていた。彼に言わせると、そういう愛が患者を救うらしい。
私は、最初に女子急性期病棟に配置されたが、もちろん、私から頼んだのではない。病院の方が決めたのだ。しかし、面接の時、「何か希望はありはすか」と院長が聞いたので、私は、「別にありません」と答えた。後になって考えると、これは病院の作戦で、希望を言わせておいて、そこに配置させる。そして自分から望んだんじゃないか、と研修医に責任感を感じさせ、病院側を精神的に有利にさせるものである。と、わかったのである。私の推測だが、私は無口で弱々しく、いきなり男子を担当させたら、精神科を嫌がってしまい、そのため最初は女子病棟にしたのではないか、と思う。
女子急性期病棟では、医者もナースも、私が、最初は女子と望んできたものと見ているようだった。私は真面目なので、夜12を過ぎてもカルテを読み、勉強していた。
「先生。死んでしまいますよ」
と夜勤のナースに言われた。
私も、「別に私が望んで来たんじゃありません」とキッパリいうと、しらけさせ、おもむきがなくなるので、黙っていた。元警官の医者は、私が望んで来たものと思ったらしく、病棟には定員があるから、私を敵視し邪魔者と見て、色々、意地悪した。考え違いもいいとこである。
元警官の医者は、単細胞きわまりない。「愛は患者を救う」などという感動ものは、テレビドラマにとどめるべきた。現実の患者はややこしい。そして、きれいな女の患者を抱いたり、電話番号を教えたりするのは、職権乱用もいいとこである。それでも、彼がハンサムならいいが、これがでっぷり太った豚ヅラ男なので笑ってしまう。
彼は暴れる患者を取り押さえるため、身につけた柔道で絵に描いたような袈裟固めで、患者を取り押さえていた。おかしくて笑ってしまった。私は空手が出来たが、自分が空手が出来るとか、空手の技を見せたりする事は一度もしなかった。自分の特技をひけらかすなどみっともないからだ。それに、私はいかなるレッテルも貼られたくない。精神科医として働いている時は、一人の精神科医という視点だけで見られたいからである。

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