ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

中井久夫『世に棲む患者』2011・ちくま学芸文庫-ていねいな精神科治療に学ぶ

2024年05月20日 | 精神科臨床に学ぶ

 たぶん2014年ころのブログです

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 中井久夫さんの『世に棲む患者』(2011・ちくま学芸文庫)を再読しました。

 中井さんはじーじがもっとも尊敬と信頼をする精神科医のお一人。

 一度だけ研究会で講演をお聞きしたことがありますが、流行のパワーポイントを使わずに、黒板に板書をしてお話をされたのが、新鮮な記憶として残っています。

 本書を読むのは、単行本だった『病者と社会-中井久夫著作集第5巻』(1991・岩崎学術出版社)の時も含めると4~5回目だと思うのですが、今回も勉強になりました。

 中井さんは統合失調症の治療で有名で、また、風景構成法などでは世界的に高名な精神科医ですが、その文章はまったく偉ぶったところがなく、やさしい語り口で、しかし、その内容は深く、広く、目配りの行き届いた文章です。

 中井さんの精神科治療もおそらくは同じようにやさしくて、配慮の行き届いた治療なのだろうと想像させられます。

 今回は、統合失調症だけでなく、境界例や強迫症などにも言及をされていて、とても勉強になりました。

 特に、あらためて驚いたのは、二人の家裁調査官の先輩の研究に言及されているところ。

 一人は(名前は明記されていませんが、内容から想像をすると)以前にも紹介をしたことのある山野保さん。

(おそらくは)山野さんの『「未練」の心理-男女の別れと日本的心性』(1987・創元社)などを中心に未練や境界性人格障害について触れています。

 そういえば、じーじが裁判所に入った時に、配属された家事事件の部屋で、山野さんを中心としたメンバーが未練や嫉妬について勉強をされていて、よくそんな話題が部屋の中で話されていたことを思い出します。

 もうお一人は佐竹洋人さん。

 佐竹さんとも一緒に仕事をさせていただいたことがありますが、佐竹さんと中井さんは佐竹・中井共編『意地の心理』(1987・創元社)というとてもいい本を出されていて、この本を読むと、未練と意地の関係について考えさせられるところが多いです。

 しかし、当時、まだまだ若造にすぎなかったじーじは、まだあまりこれらの研究のすごさが実感できない新米で、ずいぶんもったいないことをしたなと反省をしています。

 その後、仕事の中で、うらみの重要性や困難さなどを経験して、いかにこのような研究が重要であったかを、今頃になって実感しています。

 今からでも、もっともっと勉強をしていかなければなりません。     (2014?記)

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 2021年12月の追記です

 中井さんらが指摘をされた、甘え、うらみ、未練、意地、などの言葉は、その後、土居健郎さんの本などをさらに読みこむことで、じーじの臨床でも大切な言葉になっています。

 奥が深い世界なので、さらに勉強をしていこうと思います。     (2021.12 記)

 

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村上春樹・柴田元幸『翻訳夜話』2000・文春新書-翻訳という生き方

2024年05月20日 | 村上春樹を読む

 2019年春のブログです

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 村上春樹さんと柴田元幸さんの『翻訳夜話』(2000・文春新書)を久しぶりに再読。

 ついこの間読んだような気がしていたが、19年も経っていた(村上さん、ごめんなさい)。

 そういえば、この時点で、村上さんは、キャッチャー・イン・ザ・ライもグレイト・ギャッツビーもまだ訳していなくて、いずれ訳してみたい、と話されている。

 話したことでこれらの翻訳が実現をしたということもあったのかもしれない。

 村上さんと柴田さんの翻訳をめぐる話は読んでいて、とても楽しい。

 東大の柴田さんの教え子たちの質問に答えたり、翻訳学校の生徒さんとお話したり、翻訳家のたまごさんたちと議論をしたり、いろんなレベルの人たちとの話の中で、村上さんの翻訳や小説などについての考えが読めて、刺激的だ。

 そして、面白かったのは、村上さんの「カキフライ理論」。

 就職試験などで、原稿用紙3枚で自分について書きなさい、と言われた時は、自分の大好きなカキフライ(別に、トンカツでも天丼でもなんでもいいのだが…)について書くと、3枚で自分のことが表現できる、という理論で、これはすごいと思う。 

 つまり、部分を書くことで全体を表現できる、という文学のすばらしい面をうまくあらわしている、とじーじなどは感心する。

 ないものねだりだが、じーじのブログもそうありたい、と祈りたい。     (2019.3 記)

 

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