tokyoonsen(件の映画と日々のこと)

主に映画鑑賞の記録を書いています。

『ノマドランド』

2021-05-08 00:06:46 | 映画-な行

 クロエ・ジャオ監督、2020年、アメリカ。製作、主演、フランシス・マクドーマンド。

 第77回ベネチア国際映画祭金獅子賞、第45回トロント国際映画祭観客賞(最高賞)、第93回アカデミー賞作品/監督/主演女優賞。
 その他、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞、全米映画批評家協会賞など数々を受賞し、ネットで調べたら現時点で31の賞を受賞していた。凄いね。(「賞」っていう漢字が多すぎて、変な形に見えてきた。)


 観た後、じんわりと不思議な幸福感が味わえた。
 二人の俳優さん以外は皆、本当の「ノマド」で素人俳優だったことが驚きだった。リアルでドキュメンタリー風の作りだけど、最後は素敵な物語になってる感じ。素敵なっていうのもちょっと乱暴だけど。大自然の景色が気持ち良かった。

 孤独、過酷さ、SNSの使われ方、思い出や人との距離感。
 登場人物たちの温かさが印象的だった。

 主人公のファーンにはきっと、「開拓者」という遺伝子があるんだろう。複雑で様々な遺伝子の働きの中から、「開拓者の遺伝子」が遠い呼び声のように、彼女の体に郷愁という感情を呼び起こす。自由、誇り高き孤独、先駆者であること、冒険、そんなような精神の場所への郷愁。
 描かれる現代アメリカ社会から決して彼女は自由ではないし、そして社会やシステムと積極的に闘おうとしてるわけではない。むしろそれらを駆使し、組み込まれて生きている。誰だって当たり前にそうだけど。
 ただ、うっすらとした薄い雲の流れのように彼女の体内から漏れてくる、遺伝子の呼び声としか言いようのない何かとその働きが、画面を通して伝わってきた。正確には、何かの感情。小さくて遠いけれど、でも確かに手応えのある幸福感。


 私自身はどうだろう?ノマドライフに憧れはある。車一つで、今日はここ、明日はあっちへ、冬になれば暖かい土地へ。「さよなら」はない、「またどこかで」と言い、そしてまた必ずどこかの路上で会えるんだ、とは映画内での台詞。

 映画『ノマドランド』が、社会問題、社会現象を描き出す側面があるとしたら、約5億年前、海から地上へ上陸し始めた地球の生物たちの、環境問題を語らなければならなくなる。
 幸福感という感想を持つということは、『ノマドランド』が、ドキュメンタリー風でありつつ、非常に文学的な映画だと言うことかもしれない。


 幸せとは何か、というと難しいけど、人生の瞬間瞬間を繋いで行くと、確かに幸せのお釣りが来るのかもしれないなと思った。