tokyoonsen(件の映画と日々のこと)

主に映画鑑賞の記録を書いています。

『ブレット・トレイン』…ハリウッドの質感、アクション映画

2022-09-20 14:27:55 | 映画-は行

 失敗したなと思うのは、原作作家の伊坂幸太郎さんが念頭に浮かびすぎたこと。また「日本が舞台」という言葉に惑わされてしまったこと。

 良かったなと思うのは、原作を読んでいなかったこと。

 

 昔、伊坂さんの小説が面白すぎて、はまっていた時期があった。コアなファンということではなかったけど。

 ばらばらだった謎や、偶然と思える出来事や魅力的なエピソードが、終盤が近づくにつれて、まるで魔法のように見事に集約されて行く様に夢中になった。丁寧に並べられた沢山の切手が、いつのまにか、最後にきれいな一枚の絵葉書になっているような感じ。

 この言い方が正しいのかどうか分からないけど、とにかくその読後感が好きだった。

 今回そして、変な期待をしてしまったような気がする。

 もちろん、この群像劇は終点の京都駅に近づくにつれ、庭木の不要な枝を一本一本落としていくように、きれいな形が出来上がっていく。

 そこにあの感覚が全く無いわけではない。ただ、目の前の約2時間の総合芸術作品ではなくて、過去に読んだ何かを、記憶の底から引っぱり出そうとしながら観てしまった感じがする。

 

 もう一つ失敗したこと。それは作品の舞台設定について。

 変なニッポンが出てきても、気にしないようにしよう。と思っていたけど、ちょっとそういう事では無かったなと、見終わってから思った。

 帰ってから調べてみると、実際の撮影は日本では行われていないらしい。そうだよね。聞いた話によれば、幾つか東京で背景用の画像もしくは映像の撮影をし、後はロサンゼルスのスタジオでそれらを元に作り込んだとのこと。新幹線の中はもちろんセット。だから厳密に言うと、「日本が舞台」という言い方は少し間違いだったというわけだ。

 少なくとも私のイメージした「日本が舞台」とは、違うスタイルだったと気がついたのである。

 「日本にインスパイアされた、どこか」。

 ブラッド・ピットがハチ公前で誰かを待っていたりするのかな。なんてハリウッドと日本の日常的光景の融合を素朴に想像していた私は、完全に間違えていた。ブラッド・ピットは新橋で焼き鳥を食べたりはしないし、清水寺の舞台から下を見下ろして微笑んだりはしない。東京駅の改札をくぐったりはしない。

 そういう事じゃない。そういうストーリーじゃないし映画じゃない。ということに気がついたのは、観終った後だった。

 

 もし、まだ観ていない、これから観に行くという方がいるのなら、余計な事を考えずに観ることをお勧めしたい。

 雑念は無用。

 色々な謎やアイテムや人物があなたの前に現れるので、キラキラとした目でそれを受け取ってほしい。流れる音楽をそばだてた耳で聴いてほしい。物質的で、明快に存在し、自信とユーモアに満ちた個性的な登場人物に笑ってほしい。

 そしてそれは、ハリウッドの質感なのである。

 

 監督のデヴィッド・リーチ氏は、元々スタントマンをしていたそうだ。スタントマンとして、『ファイト・クラブ』や『Mr.&Mrs スミス』等、ブラッド・ピットとも五つの作品で仕事したという。

 狭い車両内でのアクションも、流れるようにスムーズ。なるほど、これはアクション映画だった。

 

 

 そういえば伊坂作品の中の、「世界と少し距離感のある妙な人物」は健在なんだろうか。それぞれが生息する世界は鮮やかだ。そして、ぼんやりとした透明感のある重なりを見せて重なり合っている。穏やかできれいな凪の中で、ふと隣の誰かの鮮やかさを感じた時、ストーリーが展開する。

 原作を読んでいないので、これから読んでみようと思う。また出会えるのは幸運だな。

 

 『ブレット・トレイン』、デヴィッド・リーチ監督、2022年、126分。原題は、『Bullt Train』。原作は、伊坂幸太郎『マリアビートル』(2010)。

 

 

真田広之さんの迫力とキレのあるアクションも健在↓必見!(笑)

↓車内がめちゃくちゃになってる!けどギリギリセーフ!が見所。

 

 

 


『グリーンブック』…ブレない二人の友情

2022-09-12 00:23:26 | 映画-か行

 『グリーンブック』、ピーター・ファレリー監督、2018年、米。130分。原題は、『Green Book』。

 

 「グリーン・ブック」をご存じだろうか。

__「黒人ドライバーのためのグリーン・ブック」。アメリカ合衆国による人種隔離政策時代の1930年代から1960年代に、自動車で旅行するアフリカ系アメリカ人を対象として発行されていた、旅行ガイドブック。郵便集配人だったヴィクター・H・グリーンにより1936年に創刊。(Wikipediaより)

 

 この作品は、体裁はロード・ムービー、背景は、1962年における人種差別問題である。

 しかしいわゆる人種問題をテーマとした社会派作品とは異なり、二人の全く異なるキャラクターの出会いと交流に時間が割かれる。したがって内容的には「普遍的なヒューマン・ドラマ」が近いと思う。

 

 

 主人公の一人は、天才黒人ピアニストのドン・`ドクター’・シャーリー。もう一人は、ブロンクス生まれのイタリア系アメリカ人、トニー・リップ。

 二人とも実在の人物で、実話が元になった作品。

 

 トニーの息子、ニック・バレロンガが脚本に参加している。彼は、「父の話を全てテープに取った」らしい。

 トニーの本当の名字は、バレロンガ。口が上手いことから「リップ」の異名をとったという。そんな父親のする思い出話はさぞかし面白かったんだろう。幼い頃は目をきらきらさせて、大人になってからはテープを用意し、聞き入る息子の姿が目に浮かぶ。

 息子のニックは監督、脚本家、俳優を務める映画業界人なので、いつか映画にしようと思っていたんだろうな。

 主人公は、ご両人とも2013年に他界している。

 

 

 作品に話を戻すと、この二人のキャラクターが本当に素敵だ。

 親しみやすさから言えば、下町育ちのトニーに分があるかもしれない。何せ、片やカーネギーホールに住み(!)、心理学博士でもある天才ピアニスト。たやすく同一化は出来ない(笑)

 「(こう言っては何だけど)ザ・ガサツ」と「ザ・繊細」のコメディ風の掛け合いは、ファレリー監督のお家芸でもあり、テンポも良く真骨頂。

 ちなみに自己肯定感の高さで言えば、二人は似たもの同士である。

 

 そして会話の言葉がシンプルなだけに、表情や、一挙手一投足から目が離せない。

 「君の世界は狭い」と言ったドンの心。「暴力ではなく、品位を保つことが勝利だ」と言い放つ強い目。ピアノを弾くドンを満足そうに見守るトニーの表情。そしてラストシーン。

 

 二人の役者さん、ヴィゴ・モーテンセンと、マハーシャラ・アリに拍手と感謝を送りたい!

 

 

 第91回アカデミー賞、作品賞/助演男優賞(マハーラシャ・アリ)/脚本賞受賞。主演男優賞(ヴィゴ・モーテンセン)/編集賞にノミネート。

 第76回ゴールデングローブ賞、最優秀作品賞(コメディ/ミュージカル部門)/最優秀助演男優賞(マハーラシャ・アリ)/最優秀脚本賞受賞。最優秀主演男優賞(ヴィゴ・モーテンセン)/最優秀監督賞にノミネート。

 その他、トロント国際映画祭観客賞など50賞を受賞。

 

 

ケンタッキーと言えばフライドチキンだろ!フライドチキンは手で食べるんだ!(byトニー)↓

 


『君の名前で僕を呼んで』…夏の終わりに

2022-09-06 18:36:21 | 映画-か行

 1983年、北イタリアの避暑地。バカンスを過ごす大学教授一家の元に、助手としてアメリカ人の青年がやって来る。

 息子である17歳のエリオと、24歳の助手オリヴァー。

 二人のひと夏のラブロマンスを中心に、登場人物たちの感情と思考が繊細に、そして温かく綾をなし、夏の空気と豊かな自然の中に広がって行くかのような作品。

 

 「何ひとつ忘れたくない。」

 このセリフが口にされた時、夏は終わったのだと観ている者は覚る。

 時間も空間も抽象化されたような背景と物語に、観客の感情さえも抽象化される。

 

 

 青年はアメリカへ帰り、家に戻って来た息子に、父親が語りかける。

 

__思ってもいない時に、自然は狡猾な方法で、人の弱さを見つける。

__人は早く立ち直ろうと自分の心を削り取り、30歳までにすり減ってしまう。

  新たな相手に与えるものが失われる。

  だが、何も感じないこと…感情を無視することは、あまりにも惜しい。余計な口出しかな?

__今はまだ、ひたすら悲しく、苦しいだろう。

  痛みを葬るな。

  感じた喜びで満たせ。

(終盤のシーンより抜粋)

 

 上記は一部だが、本当は全て書き出したくなるような、独白のような長いセリフだ。北イタリアの美しい自然や川の音の中にあった観客の感情が、ここで穏やかな思考へと昇華される。

 父親のセリフ中の「“それは彼だったから”、“それは私だったから”」という文句は、下のモンテーニュの言葉からの引用である。

 

 “もしも人から、なぜ彼が好きだったのかと問い詰められても、「それは彼が彼だったからだし、私が私だったから」という以外に答えようがない気がする。”

 (ミシェル・ド・モンテーニュ 『エセー2』/友情について より)

 

 

 ラストシーンは、3分30秒。

 主演のティモシー・シャラメの表情を写し出し、シャラメは22歳でアカデミー賞主演男優賞、ゴールデングローブ賞最優秀主演男優賞にノミネートされた。

 ああ。どうして夏ってこうなんだろう!

 

 

 『君の名前で僕を呼んで』、ルカ・グァダニーノ監督、2017年、132分。

 伊、仏、ブラジル、米合作。原題は、『Call Me By Your Name』。ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー、マイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール。原作は、アンドレ・アシマン『Call Me By Your Name』(2007年)。

 第90回アカデミー賞、脚色賞を受賞(ジェームズ・アイボリー)。作品賞、主演男優賞、歌曲賞にノミネート。

 

↓アカデミー賞歌曲賞にもノミネートされた主題歌(スフィアン・スティーブンス)

【歌詞和訳】Mystery of Love – Sufjan Stevens (from Call Me by Your Name)

 

↓エリオの夏。することと言えば、読書、作曲、泳ぐこと。たまに夜遊び。

 

↓原作訳本です。

 


『NOPE ノープ』…傾向と対策とか

2022-09-03 19:49:17 | 映画-な行

 2022年8月26日、日本で公開が始まった、『NOPE ノープ』。

 これまた、変わった作品だった。

 

 ジョーダン・ピール監督、2022年、アメリカ。131分。原題は『Nope』。(無理、とかヤバイとかイヤだの意)撮影監督は、ホイテ・ヴァン・ホイテマ(TENET、ダンケルク等)。

 

 ストレートに観ることも出来るけど、この作品のウィットとメッセージとセンスの在り方を、ほんのちょっとでも前情報で入れておくと、何かの足しにでもなるかもしれない。ということで、行こうか止めようか、お悩み中の方向けに傾向と対策を上げてみる。なんてったって、少しでも感想を言うとネタバレになってしまいそうな、この作品。

 公開中なのでネタバレなしで!

 (念の為ですが全て個人の主観です。)

 

<傾向>

 ホラー度28%、ミステリー度10%、スリラー度5%、サスペンス度5%、SF度40%、ヒューマン度10%、コメディ度3%、西部劇度5%

 

 色々混ざっている。

 「空に何かがいる」「見てはいけない」というのがホラー度とミステリー度、そしてSF度。

 サスペンス度は、主人公達がそこにどう対処していくのか。

 スリラー度は、登場人物の心の部分。

 ヒューマン度は、家族愛と人種問題、映画史的な何か、映画愛の部分。

 最後のコメディー度は、まずは、ホラーというのは大抵どこか笑っちゃうところがある、というお約束通りで絵的に可笑しい。あと微妙な間やストーリーの飛び具合とか。監督がコメディアンでもあることも関係しているかもしれない。とは言え、たったの3%。

 

 あらすじは基本的にネタバレになってしまうので控えます。敢えて言うなら、「過去と未来と現在の局地的邂逅」と言ったところ。いや全然分かんない言い方をお許しください。

 

<より楽しむための、対策>

1)事前に監督のジョーダン・ピールのことを検索してみる。

2)出来れば、ジョーダン・ピール監督の第一作目、『ゲット・アウト』(2017年/原題:Get Out)を観ておく。

3)出来れば、IMAXの大画面で観る。無理そうなら、出来るだけ音響の良さそうなスクリーンで観ること。

4)上映終了後、誰かと語り合いたい、もしくは疑問がフツフツと沸いている、何か怖い(笑)という場合は、家に帰ってYouTubeで「ノープ」と検索してみること。そこで仲間を発見すること。

 

 ちなみに、3)で大画面をおススメしているにも関わらず、自身は普通の小さめスクリーンで鑑賞した。(←ホラーは出来るならスマホくらいの画面で見たいタイプ)

 でもこの作品はIMAXカメラで撮られていること、またアメリカの広大な大地や空を映すシーンが多いので、大画面の迫力は捨てがたい。次見る時は、IMAXかな。もうストーリーは知ってるから安心だ!

 音響も結構重要。

 

 そして第一作目の『ゲット・アウト』。今作主演のダニエル・カルーヤが、こちらでも主演。

 『ゲット・アウト』は低予算映画ながら評判となり、第90回アカデミー賞脚本賞を受賞(ジョーダン・ピール)。作品賞、監督賞にもノミネートされ、ダニエル・カルーヤは、アカデミー賞とゴールデングローブ賞の主演男優賞にノミネートされた。(その後他の作品でアカデミー賞助演男優賞を受賞。)

 人種差別問題のメッセージ性は、こちらの方が強め。ピール監督のインテリ色は好みが分かれるところかもしれないが、ストーリー的にはこちらの方が分かりやすく、ピール監督への愛が沸きやすいかも?

 

 今作は結構ぶっ飛んでいて、いいですね。 

 では皆さま、グッドラック!

 

 

主たる登場人物達↓視線の先には何が…!?

IMAXで観たい場面も沢山あった↓何このニョロニョロと、影。