桃ちゃんは家に来て以来、遊びをしません。
桃ちゃんには使命があるので、それどころではないのです。
桃ちゃんの使命とは、すなわち脱出。
この狭い部屋から外に出ることです。
外に出たらお母さんを声の限りに呼び続け、再会すること。
それが桃ちゃんの願いなんですね(たぶん)。
そういうわけで、午前0時を過ぎる頃、桃ちゃんは脱出経路の探索に出かけます。
ルートはだいたい決まっていて、3つある窓をくまなくチェックし、
外に向かって助けを呼びます。
「桃を助けて!極悪人に閉じ込められているの~!」
そう、桃ちゃんにとって私たち(主人と私)は、
桃ちゃんを捕らえて閉じ込めた極悪人なのです。
窓の後はカーテンによじ登り、外へ通じる道を探します。
その後はキッチンへ行き、できるだけ高い所を目指します。
それから、食器棚の上を歩き、テーブルにジャンプ。
これを2,3時間に渡りぐるぐるします。
探索中の桃ちゃんは不良に変身します。
ものすごく荒れていて、怒っていて、不機嫌極まりないという態度です。
歩き方は象の様に のっし、のっし、と。
鳴き声は犬の様に わるるる~、わぉ~ん、と。
とにかく、うるさくて、柄が悪くて、見てる私も不良になりそうです。
桃ちゃん、なんて呼ぶ気になれず、桃助と呼んでしまいます。
「桃助、うるさいよ。」と言ったりもしますが、
その諦めない姿勢と意志の強さには頭が下がります。
いったい私は桃ちゃんの様に粘り強く物事に対したことがあっただろうかと、
人生を振り返ってみたりしてしまうのです。
しかし、桃助よ、うるさすぎだよ。
もう、お願いだから諦めておくれ。
近所迷惑で追い出されちゃうよ。