[日韓の現場]宣伝戦<1>徴用工「強制」国連に主張
日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)が条件付きながら継続され、決定的な関係悪化は回避された。ただ、元徴用工問題などの懸案が多く残っており、韓国は日本の評価を下げるような一方的主張を国際社会で展開している。その実態や背景を探る。
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韓国政府が11月22日夕、GSOMIA継続と貿易管理を巡る日韓の局長級政策対話再開を発表した約20分後、日韓のボタンの掛け違いがあらわになった。
韓国政府高官は記者団から日本側発表の第一報を聞くと、「日本がそう言ったのだとしたら合意に反する行動だ」と不快感を示した。
高官が不満だったのは、日本の経済産業省が対韓輸出の厳格化を当面維持すると発表した点にある。韓国は、対話再開を厳格化撤回への一歩だと位置づけ、対話で進展がなければGSOMIA継続の見直しも辞さない構えだ。
韓国は、政策対話は協議の場だと位置づける一方、日本政府は輸出管理の制度に関する情報交換の機会だとしており、なお隔たりがある。11月28日には、課長級の準備会合がソウルで開かれ、会合は約4時間に及んだ。
徴用工問題を巡る溝は、さらに深い。
元徴用工らへの賠償を日本企業に命じた韓国大法院(最高裁)判決から1年を迎えた10月30日、原告団は、ジュネーブの国連人権理事会に陳情書を提出した。徴用は「強制労働」だと主張し、理事会の特別報告者による調査や日本政府への懸念表明などを求めた。
原告を支援する「民主社会のための弁護士会」は10月30日に記者会見し、「慰安婦問題と同じように、強制動員の問題も国際的に連携していく」と述べ、国連の「お墨付き」を目指す考えを強調した。
日韓の賠償問題は1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的」に解決した。そもそも戦時徴用は、戦前からある強制労働条約で例外として認められていた。
しかし、大法院判決は徴用を「強制動員」と決めつけた。
韓国政府も判決に沿って日本企業の資金拠出などを求めている。
人権理事会には「山ほどの陳情」(日本政府筋)が寄せられ、多くは俎上そじょうに載らないまま終わる。それでも、日本政府は「ある日突然、理事会で取り上げられるかもしれない」(外務省筋)と警戒感を強めている。複数いる特別報告者の誰かが関心を持てば、調査手続きが始まる可能性があるからだ。
日本政府には苦い記憶がある。韓国の市民団体の働きかけもあり、人権理事会の前身・人権委員会の特別報告者クマラスワミ氏は1996年、慰安婦を「性奴隷」だと決めつける報告書をまとめた。報告書は様々な機会に引用され、「性奴隷」のイメージが国際社会に広まる一因となった。
韓国は慰安婦問題と似た道筋で、徴用工問題でも宣伝戦に乗り出している。
一方的意見 官民で乱発…福島産に「懸念」/「東海」提起
虚実
韓国内では既に、虚実入り交じった情報に基づき、徴用工は「強制労働」だという理解が広まっている。
今年8月には、小学校の国定教科書に載った「強制労役に動員された我が民族」との写真が無関係のものだと判明し、削除された。市民団体は、主要駅前など、韓国各地で徴用工を象徴する銅像を建てている。
国連への働きかけと、銅像によるプロパガンダは、慰安婦が「強制連行」だとのイメージが国際社会に広まった時と同じ風景だ。
韓国が仕掛ける宣伝戦は、徴用工問題にとどまらない。
「汚染水の海洋放出が決まれば、地球全体の海洋環境に影響を及ぼしうる重大な国際問題となる」
10月上旬のロンドン。廃棄物の海洋投棄を禁じたロンドン条約の締約国会議で、韓国の代表団が突然、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う処理水の問題を提起した。
日本政府は、汚染水を浄化した「処理水」の海洋放出はまだ決めていない。仮に放出するとしても、放射性物質のトリチウムは海水で希釈され、人体への影響は、自然界で浴びる放射線の影響を大幅に下回るとされている。会議で日本の代表団は直ちに反論したが、中国とチリが日本の情報提供に期待感を示したのをとらえ、韓国は「同調する国を確保」したと発表した。
処理水批判は、日本の対韓輸出管理厳格化への事実上の対抗措置だ。洪楠基ホンナムギ経済副首相は8月、厳格化への対抗策として「国民の安全にかかわる事案」での対策強化を予告していた。
矛先は被災地の食材にも向けられている。
2020年の東京五輪・パラリンピックに関する各国選手団の会合などで、韓国の競技関係者は8月以降、選手村での福島県産食材の使用に懸念を繰り返し示している。使用食材は決まっていないが、日本政府関係者は「韓国に同調する国が出てくるかもしれない」と気をもむ。
いたちごっこ
こうした懸念は杞憂きゆうではない。韓国の一方的主張が年月を経て、国際社会で解決すべき問題だと認識されてしまった例もある。日本海の呼称問題だ。
日本政府によると、「日本海(Sea of Japan)」の呼び名は19世紀初頭には国際社会で広く使われるようになった。韓国は1990年代初め、自国が使う「東海(East Sea)」の併記を国際会議の場などで主張し始めたが、なかなか同調は広がらなかった。
しかし、海洋名などの指針を作成する国際水路機関(IHO)は2017年、ついに韓国の問題提起に応じた。日韓両国に対し、20年のIHO総会までに話し合うよう促したのだ。
韓国の官民が一体となった宣伝戦には余念がない。
豪退役軍人省のウェブサイトの朝鮮戦争を紹介するページには、「朝鮮半島は日本海に接している」との記載があった。だが、今年10月、韓国の民間団体の要求を受け、「日本海/東海」との併記に変わった。
これを知った日本政府が働きかけた結果、豪政府から11月29日、元の表記に戻したとの連絡が外務省にあった。ただ、ページ末尾に「日本と韓国のどちらの立場も取らない」と注記し、韓国側にも一定の配慮を見せている。
韓国が各国に一方的な主張を吹き込み、その都度日本が対応に追われる事態が繰り返される。いたちごっこの状況が続いている。
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