嵐山に友人と旅行に行った
川の横に人力車が止めてあった
人力車夫から声を掛けられた
どうです 乗っていきませんか
私はその彼に一目惚れしてしまった
携帯電話教えてくれるなら乗るわ
参ったなあ 妻帯者ですよ
構いません 教えてください
彼は携帯番号とメールアドレスを教えてくれ
車を引きながら嵐山を案内してくれた 山川剛と名乗った
東京へ帰ってからも 私は彼のことを忘れられなかった
そしてついにメールをいれた
先日人力車に乗せていただいた前野ゆかりです
覚えて居られるでしょうか
もしお指し遣えなければお返事下さい
返事は来た
先日は有り難うございました はい、綺麗なお嬢さんでよく覚えております
京都は堪能されましたか
こうして私と山川さんとのメールのやりとりが始まった
その間山川さんへの想いが急速につのり 自制が効かなくなってきた
山川さん 逢いたい
僕もゆかりさんに逢いたい
しかし二人は離れている それに彼には奥さんがいる
分かってる 分かってるけれど 逢いたい気持は押さえられない
気が付けば新幹線に乗っていた
京都で乗り換えて 嵐山へ
彼は待っていた
今日はゆかりさんの為だけに走る
再び嵐山を見学して
休憩と称して彼も座席に座り 人目を避けて口づけをした
ゆかりさん
山川さん
やがて彼が帰る時間になった
切なさが押し寄せて でも止められない
彼に言った
こんな思いもう いや
山川さん もうメールしません
あなたのこと忘れます 今日までどうも有り難うございました
走って電車に飛び乗った
涙があとからあとから流れ出すのをハンカチで隠した
京都から東京までの時間の中で 心を平常に戻そうとしたが出来なかった
携帯を手にとって山川さんにメールした
ちょうど小田原を過ぎた頃に 山川さんからメールが来た
よかった 僕は君無しでは生きられなくなってしまった
またメールしていいですか これまで通り
私も答えた
はい お願いします
それから2ヶ月
彼とのメールのやりとりが行われた
しかし 最初熱烈だった彼の文章は だんだん落ち着いて来
少しずつ回数も減ってきた
どうしてもっとメールくれないの
仕事が忙しいんだ
寂しかった 逢いたかった
そんな折り 彼から待望のメールが来た
東京に行きます 忙しいから日帰りだけど
私は飛び上がった
彼は昼前にやってきた 私は東京駅のホームまで迎えに行った
一緒に食事を食べ お茶を飲んだ
彼は無口だった
どうしてそんなに喋らないの
あのね ゆかりさん やはりこんなの続けられないよ
君への気持ちは変わらないけれど 妻を裏切っているのは事実
僕には小学生の子供がふたりいて 彼らにもしめしが付かない
メールでは伝わらないと思って 今回は別れを言いに来た
もうメールも送らない 君も送らないで欲しい
そんな
涙があとからあとから溢れ出た 10分は泣いていた
しかし なんとか涙を拭い
分かりました
でもせめて新幹線まで送らせて
彼の乗るのぞみ号の出入り口で たまらず彼に抱きついた
彼もしっかり抱いてくれた
そして のぞみ号はゆっくり滑り出した
最後の車両が見えなくなってから
携帯を取りだし 山川さんのデータを消した
やりとりも一瞬にして全削除した
でも想い出は頭の中をぐるぐると駆けめぐった
彼の書いてきた言葉 彼の唇 彼の胸
気が付くと呟いていた
逢いたい