京都の鞍馬寺(くらまでら)と言えば、みなさんは何を思い浮かべますか? 多くの人は「義経」「天狗」を挙げると思います。山の上にある鞍馬寺にのぼる九十九折(つづらおり)参道は、まさに天狗が木の上を飛び交っているような神秘的な森に覆われています。自然を見事に生かした造形美は、宇宙をとても大切にする鞍馬寺の信仰に見事にフィットしています。まさにパワースポットの中のパワースポットです。
巨大杉の風格は圧巻
鞍馬山は典型的な山岳信仰の山で、唐招提寺を開いた鑑真の弟子が奈良時代末期に開きました。都から近いこともあって、平安時代から貴族の参拝が続き、枕草子にも鞍馬寺への参拝が紹介されています。
鞍馬寺は比叡山と並んで有数の僧兵の拠点でもありました。少年時代に僧になるために鞍馬寺に預けられた義経は、多感な少年時代を僧兵たちに囲まれて過ごすことになります。僧兵の武芸の鍛錬や、僧兵が考える都の政治のあり方に大いに刺激されたと考えても不思議ではありません。義経はのちに奥州の藤原秀衡を頼って鞍馬寺を抜け出します。その脱出劇が自らの意思か、周囲の工作かは定かではありませんが、鞍馬山の大自然のエネルギーが義経に行動を促したと感じさせるような神秘性が、確かにこの山にはあります。
叡山電車・鞍馬駅
最寄りの鞍馬駅には「天狗」がいます。鞍馬にはやはり、最もわかりやすい演出である天狗が欠かせません。ちなみに駅を出て寺の入口である仁王門に至る参道にもいます。東京の高尾山と同じようなパターンです。
仁王門に隣接するケーブルカー乗り場の中には、山全体のジオラマがあります。山上への道のりがとてもよくわかります。ケーブルカーは寺が参拝の便のために敷設したもので、全国で唯一の宗教法人が運営する鉄道です。鉄道ファンにはたまらないスポットでしょう。
病気や足に不安がない限り、寺は徒歩でのぼることを進めています。徒歩でのぼる九十九折参道は、鞍馬山の魅力に欠かせないスポットがたくさんあります。
鎮守の由岐(ゆき)神社の本殿の手前にある拝殿は、石段が建物の中央を通る不思議な建築です。中央の開口部から見る緑をさらに美しく見せる額縁の役割も果たしています。神秘的な鞍馬寺の趣にとてもよく調和しています。豊臣秀頼の再建で重要文化財です。鞍馬寺の境内で最も古い建物です。
由岐神社の先には義経の住居の跡地とされるところに義経公供養塔があります。天狗が上から覗いていてもまったく違和感がない巨大な杉も見事な存在感を示しています。参道をのぼっていくほどに、森のイオンで体がきれいになっていくようにも感じてきます。上り坂もさほどきつくはありません。ぜひ徒歩をおすすめします。
本殿金堂広場からのとてもすがすがしい光景
本殿金堂の本尊を鞍馬寺では「尊天(そんてん)」と呼びます。太陽を表す毘沙門天、月を表す千手観音、地球の大地を表す護法魔王尊を三位一体に祀っていますが、秘仏です。開帳は60年に1回、次回は2046年です。護法魔王尊は、いわゆる天狗のモデルでもあります。
【公式サイトの画像】 本殿金堂
鞍馬寺は幾度の火災で、江戸時代以前の建物は由岐神社の拝殿だけです。しかし仏像などの文化財は、大切に守られてきたのでしょう、霊宝殿でお会いすることができます。
次回はその霊宝殿と、義経伝説を強く感じさせる木の根道から奥の院エリアについてご紹介したいと思います。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
日本で最も有名な悲劇のヒーローの物語はどのようにして生まれたのか?
鞍馬寺
http://www.kuramadera.or.jp/index.html
霊宝殿の原則休館日:月曜日、12月12日~2月末なし(境内参拝に原則休館日はなし)
※公開期間が限られている仏像や建物があります。
おすすめ交通機関:出町柳駅から叡山電車・鞍馬駅下車、徒歩3分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:60~80分
JR京都駅→JR奈良線→東福寺駅→京阪電車→出町柳駅→叡山電車→鞍馬駅
公式サイトのアクセス案内
※現地付近のタクシー利用は事前予約を強くおすすめします。
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