古来より日本の観音巡礼の聖地であり続ける奈良の長谷寺で、巨大な本尊の足に触れて仏縁を結べる特別拝観が行われます。像高10mを超す十一面観音は、聖地の中心にふさわしい堂々たる存在感です。数えきれない人たちからの祈りを受け止めてきた包容力のあるお顔の造形が見事です。
徳川家光の寄進で山の斜面に建てられた本堂は国宝です。舞台からは紅葉に包まれていく境内の絶景が望めます。長谷寺の紅葉は少し早く例年、11月中旬ごろに見頃を迎えます。
室生寺や談山神社と並んで、秋の色が美しい奈良の山岳寺社を代表するお寺です。本堂へ上っていく途中もワクワクする風景がたっぷり楽しめます。
長谷寺は飛鳥時代に創建された寺伝が伝わっています。奈良時代初めには日本最古の巡礼コースである西国三十三所巡礼を、長谷寺の僧が選定しています。藤原道長が参拝するなど、平安時代には貴族の間で観音巡礼の聖地として信仰を集めたと考えられています。
観音巡礼は徐々に武士や庶民にも広がり、江戸時代には現在のような有数の巡礼地として定着しました。真言宗になったのは室町時代になってからのことです。安土桃山時代に秀吉に追われた根来寺の宗徒が入山し、現在の真言宗豊山派(しんごんしゅうぶざんは)の総本山としての地位を確立しました。
長谷寺は奈良の寺では徳川幕府との関係が際立っています。現在の本堂は1650(慶安3)年の建立ですが、秀吉が建立した建物をわざわざ建て替えたものです。築浅で災害にもあっていない建物を巨額の費用を投じて建て替えることは通常ないため、徳川による何らかの意図があったと考えるべきでしょう。秀吉の亡霊が庶民の観音巡礼を通じて広まることを恐れたのか、まったく定かではありません。
長谷寺には初代家康から十三代家定までの十三幅の肖像画もあります(通常非公開)。鎌倉・室町・江戸幕府の歴代将軍の肖像や木造が揃っている寺はほとんどなく、足利将軍の木造が揃った京都・等持院などに限られます。
登楼
拝観受付を済ませ、堂々とした仁王門をくぐると、長谷寺ワールドが始まります。登楼(のぼりろう)は山上の本堂へ続く屋根付きの回廊で399段あります。江戸時代と明治の建築が混在していますが、すべて重要文化財に指定されています。
屋根からぶら下がる風雅な灯篭が延々と続く光景は、本堂へ近づいていく期待感を見事に高めてくれます。壁がないため四季の植物の色を間近に楽しめ、階段を上っていく苦労を見事に忘れさせてもくれます。平安時代に始めて造られましたが、参拝者をワクワクさせる見事な演出です。
本堂入口
本尊のお顔は常時拝むことができますが、春と秋の特別拝観時のみ、本尊の足に触れて仏縁を結ぶこと(結縁、けちえん)ができます。結縁の証としてシンプルなデザインの五色線が渡されます。本来は左手につけておくものですが、ワンポイントの置物として身近に置いてもよいのかもしれません。
【公式サイトの画像】 五色線
舞台もいつも多くの参拝客であふれています。清水寺のように市街地は見えませんが、絶景を見ると観音様に祈ったことを実感できます。昔から変わらない晴れ晴れしい空間です。
本堂の舞台
特別拝観は近年・秋の紅葉・春の桜と牡丹という長谷寺名物の四季の花の時期に行われています。春明以外にもとにかく四季の花が美しい寺です。「花の寺」という昔からの評判は、現在でも間違いありません。
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
仏像彫刻研究の第一人者が奈良の仏像のこころに迫る
長谷寺
本尊大観音尊像秋季特別拝観
【寺による特別公開公式サイト】
会期:2018年10月13日(土)~12月2日(日)
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:30~16:00
◆おすすめ交通機関◆
近鉄大阪線「長谷寺」駅下車、徒歩15~20分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間40分
大阪駅(東梅田駅)→大阪メトロ谷町線→谷町九丁目駅(大阪上本町駅)→近鉄大阪線→長谷寺駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には有料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。
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