清水の舞台の喧騒から隔絶された静けさ
清水寺の舞台の裏手に縁結びで有名な地主神社があります。成就院(じょうじゅいん)は、地主神社のさらに裏手にある清水寺の塔頭で、清水の舞台の喧騒とはうって変わって静寂に包まれています。東山を借景にした「月の庭」で知られるこの寺が、2018年の京の冬の旅で特別公開されています。幕末の西郷隆盛ゆかりの寺でもあります。
成就院は、応仁の乱で全焼した清水寺を再建した願阿(がんあ)上人の住居として創建されました。以来、清水寺の管理を担当し、現代は住職が住む本坊になっています。清水寺は昭和の頃まで永らく奈良・興福寺の末寺であり、興福寺の京都の拠点とも言える寺でした。そのため身分の高い来客も多かったと考えられ、成就院の建物や庭園も相応の客人を迎えるのにふさわしい佇まいを見せています。
【YouTube】 寺を紹介する公式動画、庭の様子がよくわかります
「月の庭」は、江戸初期の俳人・松永貞徳が作庭したと言われる庭です。寺町二条の妙満寺・成就院にあった「雪の庭」、北野もしくは祇園にあった成就院の「花の庭」とともに、「成就院の雪月花の庭」として親しまれてきました。
妙満寺・成就院は昭和時代に移転した岩倉で庭を再現しており、北野もしくは祇園にあった成就院は現存しません。そのため創建当初から同じ場所にある「成就院の雪月花の庭」は清水寺・成就院だけです。
裏に迫る借景の東山の方向には、円く刈り込んだ樹木がテンポよく東山に重なるように配置されています。丸く刈り込んでいるため人工的なのですが、これが実にうまく東山の借景に溶け込んでいます。樹木による緑の芸術が山から連続して続いているように見せており、人工的な違和感ではなく逆に借景を引き締めています。
縁側近くまで迫る池は大きく、水面に映る木々の緑も見応えがあります。「月の庭」と呼ばれた所以は、この水面に映る月の美しさでしょう。冬の旅期間中は夜間公開されませんが、秋の定期公開期間中に夜間公開されます。
池泉回遊式庭園ですが、庭にはおりられません。縁側からの鑑賞になりますが、時が止まったような印象を受けます。まさに清水寺の中の“隠れ家”のような庭です。
幕末に成就院の住職だった「月照(げっしょう)」は勤王思想に傾倒し、西郷隆盛や近衛忠煕らに密談の場として成就院を提供していました。月照は、西郷隆盛とともに将軍継嗣問題で一橋派の活動を行い、安政の大獄で幕府から追われる身となります。鹿児島まで逃亡しましたが薩摩藩に保護されぜ、西郷とともに鹿児島湾で入水自殺します。
この時西郷だけが救助されて奄美大島に隔離されたため、歴史に名を遺す人物となります。大河ドラマ「西郷どん」では、月照役を五代目・尾上菊之助が演じます。成就院も密談の舞台として登場するかもしれません。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんあります。
写真家と染織家の親子が贈る京都の歳時記の決定版
第52回 京の冬の旅 非公開文化財特別公開 「清水寺 成就院」
http://kyokanko.or.jp/huyu2017/huyutabi17_01.html#02
主催:京都市観光協会
会期:2018年1月27日(土)~3月18日(日)
原則休館日:2月22日(木)~23日(金)
成就院庭園特別公開(清水寺サイト内)
http://www.kiyomizudera.or.jp/event/jojuin.php
※この寺は毎年春と秋に定期公開されます。秋は夜間も公開されます。
2018年4月28日~5月6日、11月17日~12月2日
※展示作品は、展示期間が限られているものがあります。
「お寺・神社・特別公開」カテゴリの最新記事
あの本能寺は今どうなっているか?_光秀と信長の夢の跡
黄不動の彫像、世界最古のビザ_大津 三井寺の至宝が特別公開
世界最高峰の天平彫刻と静かに向き合える_東大寺 戒壇堂 四天王
里山風景の中に美少年のような十一面観音_京田辺 観音寺
南山城に不思議な魅力の白鳳仏_カニがいっぱい蟹満寺
福岡 宗像大社_大陸との交流が封印された沖ノ島は素晴らしい世界遺産
今しか見れない仁和寺の魅力_観音堂&御殿 特別公開 7/15まで
京都の”端っこ”はやはり素晴らしい_嵯峨野 愛宕念仏寺 ほのぼの石仏
琵琶湖疎水の脇にたたずむ安祥寺、驚きの国宝美仏が伝わる
京都 大覚寺 王朝文化を伝える美仏と書_「天皇と大覚寺」展 5/13まで