日本建築の解説にあたっては、屋根の葺き(ふき)方、すなわち屋根の素材がよく出てきます。建物の用途や建築様式、建立された時代で屋根の葺き方は変わるため、葺き方を知っておくと建物の美しさや建てられた背景への理解が一層深まります。葺き方はとてもたくさんありますが、日本の歴史的建造物によく用いられる葺き方に絞って解説します。この4つを押さえておけば大抵カバーできます。
茅(かや)葺(ぶき)
日本最古・室町時代の住宅、神戸市「箱木家住宅」も茅葺
茅(かや)がどんな植物かはすぐにピンときませんが、日本ではススキが茅の代表的品種です。乾燥させて屋根に敷き詰めます。世界的にも最も原始的な屋根の葺き方で、日本の縄文時代の竪穴式住居の屋根も茅葺と考えられています。
茅はどこにでも自生しており、入手が容易だったことが屋根として最初に普及した要因と考えられます。日本の山間の農村部でも、昭和の頃まで茅葺が多く残っていました。その代表例は「白川郷・五箇山の合掌造り」です。農閑期に集落の人出を集めて屋根の葺き替えができたことも、農村部で茅葺が多く残された要因の一つでした。一般的には20-30年毎に葺き替えが必要です。
しかし茅葺の最大の弱点は火事です。江戸時代の都市の住宅では、瓦が普及したこともあり、防火のため茅葺はほぼなくなりました。
古式を重んじる神社では比較的見られます。代表例に「伊勢神宮の正宮」があります。仏教寺院や上流階級の邸宅では、現存するものはほとんどありません。一方“ひなびた感”を楽しむ「茶室」では比較的よく用いられた工法です。
【Wikipediaへのリンク】 茅葺
杮(こけら)葺
杮葺の代表例:慈照寺・銀閣
薄い材木の板を敷き詰めます。板葺の一種ですが、最も薄い暑さ2-3mmの板を用いる場合をいいます。江戸時代まではより厚い板も用いられていましたが、自由が利かないため廃れていきました。一般的には40-50年毎に葺き替えが必要です。
杮葺は清楚 <慈照寺 銀閣>
杮(こけら)とは「木片」という意味で、建物が完成するときに屋根に残った木片を払い落とすことが「こけら落とし」の語源になりました。
茅葺に次いで古い工法と考えられています。茅葺ほど火災に弱くなく、入手が容易だったことがその要因でしょう。室生寺・金堂、慈照寺・銀閣、桂離宮・古書院などが代表例です。寺社から邸宅まで日本の文化財建築ではとてもたくさんあります。
瓦のような幾何学的な突起がなく、グレーやブラウン色で平面的に見える屋根が「杮葺」です。シャープで清楚な印象を与えます。見た目は「檜皮葺(ひわだぶき)」と区別が難しい場合があります。
【Wikipediaへのリンク】 杮葺
檜皮(ひわだ)葺
檜皮葺の代表例:厳島神社・本殿
檜(ひのき)の皮をはいで敷き詰めます。日本にしかない葺き方です。平安時代に国風文化が進行すると、最高級格式と考えられるようになりました。一般的には30-40年毎に葺き替えが必要です。
檜皮葺は優美 <醍醐寺 唐門>
瓦葺きが基本の仏教寺院は少ないですが、神社や邸宅建築には多くあります。京都御所・紫宸殿、厳島神社・本殿、清水寺・本堂が代表例です。濃いブラウン色で平面的に見える屋根が「檜皮葺」です。優美で洗練された印象を与えます。見た目は「杮葺」と区別が難しい場合があります。
檜皮葺は現在、杮葺きと並んで、歴史的建造物の葺き替え需要しかありません。材料の入手とともに技術の伝承が困難になりつつあります。
【Wikipediaへのリンク】 檜皮葺
瓦(かわら)葺
瓦は、飛鳥時代に仏教が日本に伝えられた際、寺院建築の技法とともに製造技術が輸入されました。奈良時代までは最も格式が高い屋根の葺き方と考えられており、寺院と宮殿など公的建築は瓦葺きでした。
平安時代になると宮殿など公的建築は檜皮葺が多くなりますが、寺院では瓦葺きが使われ続きました。安土桃山時代頃から城や武家屋敷でも用いられるようになり、江戸時代には防火のため都市部の民家にも広がっていきました。
瓦は何と言っても、茅/杮/檜皮といった植物系の素材と比べて耐火・耐水性に優れています。しかし植物系の素材と比べてとても重く、地震の多い日本では建物が倒壊する要因にもなります。
仏教寺院でも、奈良の南都系宗派や禅宗など、中国とのゆかりが深い宗派の寺院で特に瓦葺きが多い傾向があります。一方神社には、江戸時代以降の新築はともかく、古式にのっとった建築で瓦葺きはまずありません。
【Wikipediaへのリンク】 瓦葺