広島県の福山市に鎌倉時代の国宝建築が二棟伝えられています。明王院(みょうおういん)の本堂と五重塔です。
- 鎌倉時代末期建立の本堂は、和様と禅宗様がブレンドした折衷様の建築では日本最古クラス
- 優美な五重塔は中世に貿易港として繁栄した門前町からの寄進で完成した稀有な建造物
- 広島県東部は、国宝建造物5棟が伝わる歴史エリア
近くには江戸時代の港町の風情がそのまま残る鞆の浦(とものうら)もあります。周遊するのもおすすめです。
賑わう境内
福山市は、現在は広島県東部(旧:備後国)の中心都市として栄えていますが、現在の中心市街地は古代には海の底でした。明王院の目の前を流れる芦田川の堆積作用で徐々に陸地となっていき、江戸時代に福山城が築かれてから本格的に市街地化が進みました。
福山市の貿易港としては、風待ち港として古代から栄えた鞆の浦(とものうら)がよく知られていますが、海だった福山市中心市街地周辺にも複数の港がありました。風待ちや北部を通過する山陽道の外港として使われたのです。その一つ・草戸(くさど)は、鎌倉時代から室町時代にかけて大きく繁栄しており、明王院の門前町ともなっていました。
明王院は平安時代の初めの創建と考えられており、江戸時代初めまでは常福寺(じょうふくじ)という寺名でした。現在本尊となっている重文・十一面観音は平安時代前期御作風です。寺の創建当初からつたわっている可能性があります。
本堂
国宝の本堂は鎌倉時代末期の1321(元応3)年の建立です。屋根が低い和風の特徴を見せますが、屋根の四隅の反りは禅宗様です。朱塗りの柱と明るい瓦の色が輝くように見え、非日常の空間であることを現しています。
もう一つの国宝・五重塔は、本堂よりやや時代が下った南北朝時代の1348(貞和4)年に、草戸の町衆からの寄進で建立されました。貴族・武家ではなく町衆の寄進で建てられた中世の堂宇がのこっているという話は、きちんと調べられていませんが、他に聞いたことがありません。
近隣に草戸や鞆の浦という経済都市があったこと、戦乱や火災から免れていたこと、町衆の寄進という記録がのこされていたこと、の3点が驚きの話を支えています。
五重塔
五重塔は和様建築です。朱塗りの柱や戸が背後の緑に映え、とても優美な姿を見せています。瓦葺きの屋根は隣の本堂と同様に明るく輝いています。山口の瑠璃光寺。五重塔は檜皮葺きの屋根がシックで洗練された印象を与えるのに対し、明王院・五重塔は後光がさしたような明るい印象です。真言宗の寺院として真言密教ワールドを、美しいプロポーションで表現しているようです。
明王院の境内は芦田川を眼下にした高台にあり、福山市内を一望できます。江戸時代初めに福山城を築いた水野勝成(みずのかつなり)もこの風景を愛したのでしょう。
勝成は常福寺を庇護するとともに、近隣にあった明王院を福山城築城の鎮守と水野家の祈願寺とします。しかし明王院はまもなく衰えを見せたようで、勝成の孫の勝貞(かつさだ)の代になって、常福寺の境内に両寺を合併し、名を明王院としました。
以降は福山城下きっての大寺となり、水野家から藩を引き継いだ阿部家でも祈願寺として庇護が続きます。貴重な国宝建造物がのこされたのも、江戸時代の藩主による庇護が大きく影響しているでしょう。
蘇鉄がとても元気でした
境内は明るく、多くの参拝者で賑わっていました。現在も地元で愛され続けているようです。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
地方にも驚きの国宝がたくさんある
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明王院(広島県福山市)
【公式サイト】http://www.chisan.net/myooin/
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:8:00~18:00
※この寺の境内は観光目的で常時公開されています。
※建物内部は観光目的では常時公開されていません。公開は毎年11月中旬に開催される「紅葉と歴史まつり」に限られます。
※本尊は秘仏で33年に一度の開帳です。次の開帳は2024年の予定です。
◆おすすめ交通機関◆
JR山陽線・山陽新幹線「福山」駅からトモテツバス「神島橋西詰」下車、徒歩7分
JR福山駅から車で7分
JR福山駅まで山陽新幹線「のぞみ」で、新大阪駅から60分、東京駅から3時間30分
JR福山駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
福山駅南口6番バス乗り場→トモテツバス瀬戸経由新川線→神島橋西詰
※鉄道やバスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。
※この施設には無料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。
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