広島県東部、旧:備後国にある国宝建造物の2か所目、尾道の浄土寺(じょうどじ)を訪ねました。「坂のまち」尾道を代表するような情景が境内に広がっています。
- 本堂/多宝塔の2棟とともに境内全体が国宝に指定されており、文化財の数でも尾道最多
- 大きな空に映えるスタイリッシュな多宝塔は、日本有数の美しさ
- 高野山/西大寺や足利尊氏との縁が深い悠久の歴史を持つ
- 現在まで700年ほど災害から免れており、中世の伽藍が坂のまちの独特の情景を形成する
地方にある寺院としては京都や奈良との関係の深さがとても目立つ寺です。それだけ長い間、尾道の繁栄が続いてきたのです。
高台にある境内からしまなみ海道の橋が見える
浄土寺は聖徳太子による創建伝説がありますが、記録に現れるのは平安時代の末期です。この頃、尾道周辺は高野山領となっており、高野山へ内陸部の物産品を運ぶ港として繁栄の歴史が始まります。
瀬戸内海の東西の往来は古代より活発で、湊は近隣の鞆の浦など随所にありました。その多くは風向きが変わるのを待つ汐待ち湊でしたが、尾道は当初から内陸部の物資を積み出す役割が強かったことが特徴です。他の湊に比べ有力な商人が現れ、町は発展していきます。尾道の古刹が中世以来続いているのは、町の繁栄と畿内との交流の活発さが背景になっていると考えられます。
浄土寺は鎌倉時代に一時的に衰退しますが、奈良・西大寺中興の祖・叡尊(えいそん)の弟子・定証(じょうしょう)により14cになって再興されます。その再興伽藍は、鎌倉時代末期の1325(正中2)年に焼失しますが、わずか2年後には尾道の有力商人の寄進で国宝の本堂が再建されています。多宝塔も含め、現在の浄土寺の伽藍の東半分にある4棟の国宝・重文建築はみなこの時期の再建です。
前回ご紹介した福山・明王院の国宝の五重塔もほぼ同時期に、町衆の寄進によって建立されています。尾道にも貴族・武家の寄進ではない中世の寺院建築がのこっていることには驚きを隠せません。自らの防災努力もありますが、浄土寺は高台にあることが類焼を免れやすかった可能性があります。
JR山陽線のガード
海岸線に沿って走る国道2号線からは、石段で境内にあがります。途中でJR山陽線のガードの下を石段がくぐっており、海を借景に電車が横切る光景は何とも言えず”尾道的”です。石段から朱塗りの重文・山門をくぐると正面に本堂があります。
【浄土寺公式サイトの画像】 本堂
【明王院公式サイトの画像】 本堂
国宝の本堂の第一印象は「明王院本堂とよく似ている」ことでした。入母屋造りで瓦葺き、柱間は縦横5間ずつ、屋根は禅宗様だが全体として折衷様、建立は明王院が6年早いだけ、両地点は20kmほどの道のりしか離れていない。どうも両堂は同系統の大工が手掛けたような気がしてなりません。
しかしながらそれぞれの美しさには甲乙つけることはできません。浄土寺の方が本堂と塔の間に阿弥陀堂があり、塔も五重塔ほどは高くありません。借景の山もなだらかで、境内全体として柔らかな落ち着いた印象を受けます。
多宝塔
国宝の多宝塔は、上層の円形部分が細いウエストのように見え、建物全体のフォルムを引き締めています。本堂から1年遅れただけで完成しています。湊から見える高台に燦然と輝く密教空間が現れた様子は、尾道の町の底力を見せつけていたかのようです。
境内西半分にある方丈や庫裏は江戸時代の商人からの寄進です。方丈裏の名勝指定庭園はきちんと手入れされており、方丈と共に江戸時代の豪商たちをもてなしていた贅沢な空間がのこっています。
本堂の鬼瓦
【寺公式サイト】 拝観案内(拝観箇所)
拝観を申し込むと、国宝の本堂内陣や庭園、宝物館が案内されます。浄土寺は建造物もさることながら仏像や絵画でも数多くの重要文化財を所有しています。富裕な商人との交流が活発だった証です。宝物館もぜひ見るべきところです。
本尊の重文・十一面観音は33年に一度の開帳で次回は2028年です。なお今年2019年は新天皇が即位します。秘仏を有する寺は、新天皇即位時に開帳するところが少なくありません。浄土寺に限らず、今年は秘仏の開帳ラッシュが期待されます。新天皇が即位する5月、もしくは即位の礼が行われる10月以降に開帳の発表が集中するかもしれません。
重文・山門
足利尊氏は、ライバルの新田義貞に敗れて九州に下向する際、反撃のために京に上る際、いずれも浄土寺に立ち寄って戦勝祈願を行っています。完成したばかりの本堂と多宝塔の美しさは、尊氏の耳にも入っていたのでしょう。浄土寺ではそれ以来、寺紋に足利家と同じ「二つ引」を使っています。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
土地勘のないエリアの寺社巡りにとても便利
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浄土寺(広島県尾道市)
【公式サイト】http://www.ermjp.com/j/temple/
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~16:00
※公開期間が限られている仏像や建物・美術品があります。
◆おすすめ交通機関◆
JR山陽線「尾道」駅下車、おのみちバスで「浄土寺下」下車、徒歩3分
JR山陽線「尾道」駅下車、南口から徒歩25分
JR尾道駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
尾道駅南口1番バスのりば→おのみちバス本線東行/市民病院線/向東線→浄土寺下
山陽新幹線・福山駅で在来線に乗換、JR尾道駅まで
新大阪駅から1時間30分、東京駅から4時間
【公式サイト】 アクセス案内
※鉄道やバスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。
※この施設には無料の駐車場があります。
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