奈良・興福寺は毎年10~11月に通常非公開のお堂が公開されます。南円堂と北円堂です。北円堂(ほくえんどう)は日本肖像彫刻の最高傑作といえる運慶作の無著(むじゃく)・世親(せしん)像のホームグラウンドです。奈良のお寺の特別公開の中でも特に人気の高い恒例のイベントです。
今年2018年の北円堂の公開は、興福寺の中心堂宇となる中金堂(ちゅうこんどう)が300年ぶりに再建され、落慶法要を終えて一般公開されるタイミングと重なります。また例年と同じく奈良国立博物館の正倉院展とも重なります。
今年の秋の興福寺周辺は、とても華やかです。中金堂の晴れ姿と共に、北円堂もぜひチェックしてみてください。
北円堂の青い空
北円堂は奈良時代の721(養老5)年、藤原不比等の一周忌に元明(げんめい)上皇と元正(げんしょう)天皇によって建立されました。1180(治承4)年の平重衡の兵火で焼失し、1210(承元4)年に再建されたのが現在の北円堂です。興福寺が幾度も見舞われた火災から免れ続けた強運の持ち主で、興福寺に現存する建物では最古です。
少し高台にある興福寺境内の西の端に建っており、奈良時代には平城京の町を眺望できました。平城京建設に精を出した不比等が喜ぶよう配慮された建設地と考えられています。
八角形の建物で、直径は12mほどのコンパクトなお堂です。外観には力強い存在感があります。優美な瓦屋根も美しく、青空にとてもよく映えます。中にまつられている仏像はウルトラ級のスターが勢揃いです。建物はもちろん、仏像のほとんどが国宝です。
【公式サイトの画像】 国宝 弥勒如来坐像
センターの本尊は、運慶が一門の仏師を指揮して造立した弥勒如来(みろくにょらい)です。弥勒は釈迦の次に仏になれることを約束されており、一般的には足を組んだ半跏思惟(はんかしゆい)像の修行中の姿を表した「菩薩」像がよく知られています。北円堂の弥勒は修行を終えて仏になった「如来」像で、他の作例は奈良・当麻寺・金堂本尊などに限られています。
悟りを開いた如来として、とても腹のすわった冷静沈着なお顔に造られています。光背(こうはい)で表現された弥勒如来から発せられる光は力強く、お顔の表情にとてもマッチしています。
【公式サイトの画像】 国宝 無著・世親像
昨年2017年秋の東京国立博物館での「運慶」展での記憶が新しい方も少なくないと思います。見やすいようライトアップされた展覧会場とは異なり、堂内はやはり暗いです。堂内は一周できますが、完全に360度鑑賞ができるわけではありません。しかしこの環境が本来の姿です。暗い堂宇で仏像にお会いすると、仏様のお顔が神秘的に感じられることもあり、どこか心が軽くなります。
無著・世親はインドの学僧で法相宗の教学の確立に貢献した興福寺がとても敬う偉人です。仏様のような包容力で見る者の心を落ち着かせます。釈迦如来や四天王と一緒に並んでいるからこそ、展覧会では体験できない空間としての印象を味わうことができます。
【公式サイトの画像】 国宝 四天王立像
運慶らによる鎌倉復興期の造立ではなく、平安時代初期の造立です。運慶らによるリアルでスタイリッシュな仏像を、平安時代初期に多い肉太の四天王が護っている光景が妙にバランスがよく見えます。運慶らによる鎌倉復興期に北円堂に造られた四天王は、現在南円堂に安置されているものと推定されています。
落慶法要直前の中金堂
中金堂の一般公開も、北円堂特別公開と同じく10月20日から始まります。今年の秋の奈良は、興福寺ワールドを存分楽しめます。
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
切手の専門家が語る切手になった美仏の魅力
興福寺 北円堂 特別開扉
【奈良県観光公式ガイドによる催しサイト】
会期:2018年10月20日(土)~2018年11月11日(日)
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~16:45
興福寺
【公式サイト】http://www.kohfukuji.com/
※南円堂の公開は、毎年10/17の一日だけです。
◆マナー教室◆
◇写真撮影の前に確認! 撮影可能か、立入禁止でないか、三脚や一脚が使えるか?
◇カメラのシャッター音は出ないように、特にスマホは注意!
◇カメラのフラッシュがたかれないように設定、光や熱が美術品を傷つけます!
◇室内を見学する場合、持ち物が無意識に壁や置物に触れ傷つけてしまいます。手荷物は預ける、リュックは前に抱える、レンズの大きい一眼レフカメラは持ち込まない、など配慮しましょう。
◆おすすめ交通機関◆
近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札C出口から徒歩5分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間5分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には有料の駐車場があります。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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