日本建築の用語集として「屋根の葺き方」に続いて「屋根の形状」について解説します。伝統的な日本建築の屋根は、雨が多いことから勾配が付いています。沖縄を除いて、ビルの屋上のような平面の屋根はほぼありません。
「屋根の形状」は勾配の付け方による分類で、建物の用途や時代によって傾向があります。知っておくと建物の美しさがどの部分を指しているのかが容易に理解できるようになります。
日本建築の屋根は、世界的にもとても多様性があります。屋根のデザインを競うことによって建物全体の印象を決定づけたと言っても過言ではないほどです。確かに低層が多い日本建築はおのずと“屋根”が目立ちます。一方、高層が多く屋根が平面で見えないヨーロッパの建築はおのずと“壁”が目立ちます。文化の違いはとても興味深いものがあります。
切妻(きりつま)造(づくり)
本を開いて伏せたような最もシンプルな勾配屋根です。勾配が四角形の建物の2面にしか付いていません。寺社から住宅まで広く用いられます。奈良時代以前に創建された神社はほぼ切妻造であるように、古代では切妻造の格式が高いと考えられていました。一般の住宅では西日本で多い傾向があります。
【Wikipediaへのリンク】 切妻造
寄棟(よせむね)造
勾配が長方形の建物の4面すべてに付いています。屋根の一番高い稜線部分は「大棟(おおむね)」と呼ばれます。寄棟造は古代には「東屋(あずまや)」と呼ばれていました。大陸文化の影響が強かった奈良時代では格式が高いと考えられており、現存する奈良時代の寺院建築は寄棟造が多くなっています。東大寺・大仏殿、唐招提寺・金堂が代表例です。一般の住宅では東日本で多い傾向があります。
【Wikipediaへのリンク】 寄棟造
宝形・方形(ほうぎょう)造
二通りの漢字を用いますが意味は同じです。平面が正方形の建物の4面全てに勾配を設けると、寄棟造の大棟ができず、4面全ての屋根が三角形になります。ピラミッド型という表現が最もわかりやすいでしょう。浄土寺・浄土堂が代表例です。六角形なら「六柱(ろくちゅう)造」、八角形なら「八柱(はっちゅう)造」と言います。法隆寺・夢殿、興福寺・北円堂が代表例です。
【Wikipediaへのリンク】 宝形造
入母屋(いりもや)造、錣(しころ)造
【Wikipediaの画像】 入母屋造、錣造
【Wikipediaへのリンク】 入母屋造
上半分が切妻造、下半分が寄棟造になっている屋根を「入母屋造」と言います。西洋には少なく東アジアで一般的です。日本では平安時代以降に格式が高い屋根として定着しました。寺社から宮殿、城まで広く用いられています。
「錣造」は、上半分と下半分の勾配の角度が異なる屋根を言います。京都御所・紫宸殿が代表例です。
【Wikipediaへのリンク】 錣造
反り(そり)・照り(てり)/起り(むくり)
屋根の形状ではなく勾配のカーブを指します。「反り」「照り」は凹型に勾配の中心がへこんでいる屋根を指します。大陸から伝わったこともあり、仏教寺院の多くは「反り」屋根です。格式や荘厳さを示すと考えられてきました。
一方「起り」は、凸型に勾配の中心がふくらんでいる屋根を指します。「起り」の方が少なく、安土桃山時代以降の数寄屋建築や江戸時代の商家に見られます。謙虚さや丁寧さを示すと考えられてきました。
いずれのカーブも高い職人技術が必要です。檜皮や瓦などの屋根素材を、曲線を計算して微妙にずらしておいていくのです。見事な芸術と言えるでしょう。
【Wikipediaへのリンク】 反り・照り/起り
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とても興味深いメッセージをいただきました。
複数をブレンドした建築様式は、日本では「八幡造」「権現造」といった神社建築で目立ちます。使い勝手やデザインの嗜好に応じて柔軟に設計を変えたのでしょう。
住宅でもブレンドした様式があることに驚きを隠せません。日本のデザインは際限なく奥深いとあらためて感じました。