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素朴な境内で天平空間と鎌倉美仏を味わう_奈良 海龍王寺 3/23から

2019年03月04日 | お寺・神社・特別公開

こじんまりした境内で、奈良の素朴な風情と天平の香りが味わえる古刹があります。平城宮跡のすぐ東にある海龍王寺(かいりゅうおうじ)です。

  • 天平時代の国宝・五重小塔は保存状態が良く、1200年前の荘厳な姿を今につたえる
  • 本尊・十一面観音は慶派仏師による端正なマスクが個性的
  • 3月下旬には雪柳の白い花が境内を埋め尽くし、桜とのハーモニーが絶品


十一面観音は春秋それぞれ約2週間のみしか公開されません。お会いすると、とても記憶に残る美仏です。


咲き乱れる雪柳が訪れる人を出迎える

海龍王寺は、731(天平3)年に光明(こうみょう)皇后によって開かれ、聖武天皇治世後半に権勢をふるった僧・玄昉(げんぼう)が初代住職になったという創建縁起を、寺は公式見解としています。同時代の史料ではこの創建縁起が確認できないことから学術的には立証されていませんが、史実から推測するとこの創建縁起は合理的に解釈することができます。

海龍王寺は、奈良時代に全国の国分尼寺(こくぶんにじ)の総本山として建立された法華寺(ほっけじ)と境内が隣接しています。両寺とも光明皇后の父・藤原不比等(ふじわらのふひと)の邸宅が境内になっています。

海龍王寺は平城京遷都前から存在し、不比等が邸宅を構える際に藤原家の私的な祈願所として取り込まれました。光明皇后は父の邸宅を相続し、祈願所は宮廷の私的な寺である内道場(ないどうじょう)となります。平城宮に隣接しており、通うには便利な立地です。

同じ頃、玄昉が聖武天皇の母の病気を祈祷で回復させ、宮廷内で発言力を増します。こうした史実から、玄昉が海龍王寺を拠点に行動したことは合理的に推測できます。


西金堂の中にある五重小塔

国宝・五重小塔が収められた西金堂は、奈良時代前半建立の重要文化財です。鎌倉時代に大規模な修理が施されています。本尊の十一面観音も鎌倉時代の慶派仏師による造像です。鎌倉時代前半には、真言律宗の宗祖・叡尊(えいそん)が住しています。隣接する法華寺と共に南都焼討に巻き込まれて荒廃していた寺は、叡尊以降に復興された可能性が高いと考えられます。

五重小塔は、当初から室内に安置する”小塔”として造られたと考えられています。通常の塔を建立できるほどの敷地が境内にはなく、宮廷の私的な寺院であって、人目につかせる必要がなかったからかもしれません。



結果的に1,200年以上室内にあったため、彩色はとても綺麗にのこっています。最上階の屋根までは3mもないため、木組みが間近にとてもリアルに見えます。通常の数十mもある塔では決して体験することができない距離感です。”小塔”と聞くと”模型”のように見下してしまいがちですが、そんな思い込みを後悔するほどの出来栄えと美しさです。

奈良にはもう一つ国宝の五重小塔が元興寺(がんごうじ)にあります。元興寺の五重小塔は通常の塔と同じく部材を組み合わせて造られており、内部構造まで見ることができます。海龍王寺の五重小塔は内部構造がない箱状の構造物に木組みや屋根を張り付けたものですが、制作はより古いと考えられています。創建時とほぼ同じ室内空間に安置され続けています。天平時代を体験できる稀有な空間です。


本堂

【海龍王寺公式サイトの画像】十一面観音像

春秋の約2週間ずつ限定公開の本尊・十一面観音は、戦後まで秘仏でした。金地の保存状態がとてもよく、800年前の輝くような美しさを見事に今に伝えています。

十一面観音は千手観音と並んで”悩み事は何でも聞きます”系のターゲットの広い仏様です。柔和なお顔立ちが一般的ですが、海龍王寺本尊は”端正”です。鎌倉仏という制作時期の特徴もあり、仏様としてモダンに感じます。快慶的な静かな表情がさらにスタイリッシュになっています。奈良に数ある美仏の中でも、特に個性的です。


雪柳の上に桜

海龍王寺のある、近鉄奈良線から北に広がるエリアは佐保(さほ)と呼ばれます。閑静な住宅街の中に名だたる法華寺などの古刹や聖武天皇陵などの遺跡が点在しており、散策しながら楽しむ人がとても多いエリアです。春は色とりどりの花もあちこちに咲いています。奈良の大きな青空は、近づく春の陽気を充分に楽しませてくれます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



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海龍王寺
十一面観音開帳 春季特別公開
【奈良県観光公式サイト】

会場:本堂
会期:2019年3月23日(土)~4月7日(日)、5月1日(水)~5月9日(木)
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~16:50(5/9は~11:50)

※荒天中止の場合があります。
※この特別公開は、毎年ほぼ同日程で行われています。秋季(10/25頃~11/10頃)も行われます。
※この寺は観光目的で常時公開されています。

海龍王寺
【公式サイト】 http://www.kairyuouji.jp/

原則休館日:8/12-17、12/24-31
入館(拝観)受付時間:9:00~16:30

※荒天時は拝観中止になる場合があります。
※公開期間が限られている仏像や建物・美術品があります。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「新大宮」駅下車、徒歩15分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間10分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→新大宮駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。


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