8月12日。早朝よりチョモランマやマカルーの山々(通のあいだではジャイアントと言うらしい)の出現を待つが、
残念ながらその方面は雲におおわれ視界がきかない。「昨日の夢よもう一度」という我々の期待は裏切られた
かたちとなった。そういえば今朝はきれいな朝焼けが見えた。さらに天候が悪化する前兆なのだろうか。
朝食を済ませ後ろ髪引かれる思いで歩き出す。
しばらく歩くとブロッケン現象に遭遇する。ブロッケン現象とは太陽などの光が背後からさしこみ、影の側にある
雲粒や霧粒によって光が散乱され、見る人の影の周りに、虹と似た光の輪となって現われる大気光学現象。
ブロッケンの妖怪(または怪物)とも呼ばれるが、日本では御来迎(ごらいごう)、山の後(御)光、仏の後(御)
光、あるいは単に御光とも呼ばれる。これは、古くは阿弥陀如来が姿を現したと考えられていたためである。
槍ヶ岳開山を果たした僧播隆の前に出現した話が有名である。
【左の写真】ちょっと中途半端なブロッケン現象 【右の写真】8月12日の朝焼け
ブロッケン現象。中心に人影が見える。
昼食後もひたすら草原をランマ・ラに向かって歩く。遠くには無名峰や氷河が至る所に見える。16時頃、
湖近くの本日のテント場に着。ここはランマ・ラ直下の標高4935mである。今日は全体としては曇天の
中、緩い起伏の山々を上り下りしたことになる。長い一日だった。
【左の写真】無名峰 【右の写真】無名峰
至る所に険しい氷河が見える。
【左の写真】ヤクのキャラバン 【右の写真】テント場近くの湖
8月13日。何となく体がだるく熱っぽい。隊に同伴するドクターに診てもらうと体温が39℃あるとのこと。今まで
高度障害(高山病)がなかったのに、こんなところで発熱するとは...。発熱で思うように歩けない自分自身が情
けない。
荷物を積んだヤク隊にあっという間に追い抜かれてしまう。13時ごろランマ・ラに到着。雨にみぞれが混じる天候
の中での5295mの峠越えとなった。道中安全を祈願して隊員のめいめいがタルチョをつるした。私は日本から
持参した風呂屋ののれんタルチョをつるした。
風呂屋ののれんタルチョ。右端の赤い雨具が筆者。高度障害のため、体や顔がむくんでいる
難所のランマ・ラを越えると後は下る一方と言うことで気持ち的に楽になる。しかし降りても
降りてもテント場が見えない。隊長と隊員1名を偵察のため先行させるが、無線機で呼びかけても電波が届か
ないのか応答がない。仕方なく下り続ける。どれくらい下っただろう。遠くに先行した隊員が我々に向かってくる
のを見つけたときには本当にホッとした。
19時30分頃テント場に無事到着。チベット人スタッフが用意してくれていたミルク紅茶のおいしかったこと。
「生き返った」という気がした。今日は標高差300mを登り、1000mを降りた勘定になる。本格的なトレッキング
といえるのは今日が最後だが、早朝から夜まで本当に長い一日であった。
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