読書の森

幼馴染 (最終章)



姑の葬式を済ませた後、小夜子はどっと疲れた。
いつまでも寝込み、起きると夫の冷ややかな顔があった。
「この人は私を許していない。憎んでる」
と直感した。

姑を抱え込むまで、曲がりなりにも平和な家庭を営んでいた。
二人の子も家庭を持って、皆で家族旅行をしたり、穏やかな団欒があったのだ。

夫はもう小夜子に触れても来ない。
母親っ子だった彼にとって妻の仕打ちは悪魔の様に見えたのかも知れない。

小夜子は少なくとも世話好きで人が良いと思った自分の中に、恐ろしい冷酷さがあるのを知った。

冷え冷えとした家庭と、疲れ果て床に就き勝ちな小夜子。
夫は小夜子の死ぬのを待っているのかも知れない。
小夜子が姑の死を願った様に。

奈美江の能天気な電話は聞くのも面倒くさい。勝手にやってくれと思う。
ふと過る寂しさを忘れるかの様に、小夜子は大福を勢い良く頬張った。





夜10時、奈美江は母に合わせて早く床に就く。
小夜子と音信不通になってから、もう3月。
電話をかけても上手く和解出来るかわからない。
「どうしてるかしら?」眠れなくなる。

窓を開けると月夜である。

ふと二人で並んで月見をしたのを思い出した。
小夜子の家はすぐ近くで、縁側で腰掛けて煌々と光る丸い月を、見つめた。

里芋のきぬかつぎが皿に盛られ、ススキが飾られている。

小夜子の母親はいつも割烹着を着て、髪をまとめ、化粧っ気が無かった。
綺麗な大きな目が優しかった。

幸せな昔の思い出が、奈美江の心に溢れ、目に涙が溢れた。
昭和中頃の本当に平和な、小さな幸せが何よりも恋しい。

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