実は櫻子は覚に密かな恋心を抱いていた。
おそらく山道で抱かれた体験が呼び覚したものだろう。
「大丈夫か」と低い声をかけた覚の男らしい表情に思わず胸がキュンとなった。
彼女も以前より足繁くサークルに通う様になった。
それから時々覚の熱い眼差しを感じて彼女はいい気になっていた。
しかし、直ぐに失望させる噂が耳に入る。
サークルの仲間から、遊び回ってるという彼の噂を聞いたのである。
「あれはやめといた方がいい。いい加減な男だ」
先輩の軽蔑した言い方は彼女への警告とも取れた。
そして三年過ぎた。
覚は大手電器メーカー、櫻子は大手書店に就職した。
卒業後二度目の新緑の季節に、櫻子は覚に電話した。
「懐かしくなった」と言う口実を作った。
本当の理由は、職場がどうにもつまらなかったからだ。
店員の域を超えない自分の限界を知った思いである。
「どう、仕事上手くいってる?」
「いやあ、私この仕事自分に向いてるかと疑っちゃう。身が入らないのよ」
「出版不況だからね」
それが、覚の最初の返事だった。
「そちら景気良さそう。忙しいでしょ?」
「まあね。でも逢える時間くらいあるさ」
そうして二人のデートが始まった。
櫻子の本心は遊び人の彼と大人のデートが出来ればよかったのである。
未だ硬い殻を身につけた櫻子を覚は優しく大人の女にしてくれるだろう。
高尾山のアクシデントはそう思わせるに充分だった。
読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️
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