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「何!君そんな事本気で言ってるの?」
由芽子を怒鳴ってるのはベテラン営業マンの今里である。
由芽子は、その後営業所内で彼女に会っても、ウンともスンとも言わない広崎の事で悩んだ。
そして全てを江田ミヤに打ち明けてしまった。
江田ミヤは2歳年下の気さくな女性である。
その場は驚いた顔もせず熱心に聞いてくれた。
由芽子はミヤに呼ばれて行ったレストランに営業所から二人の男が待っていたのである。
そこで広崎が家庭持ちである事、営業所にとって貴重な存在であると説明された。
さらに二人のデートがその夜の内にネットで噂を流された事を伝えた。
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由芽子は今度はパニックにならなかった。
人生はこんなものだとどこか冷めた部分が彼女の中で育っていたのだ。
頭の空洞に砂漠が広がるのを彼女は感じていた。
「それが何ですか?私は広崎さん好きなんです。悪い事なんですか?」
と由芽子は答えた。
親切な訳知り顔の今里が一変した。
汚いものを見る様な目で由芽子を睨んんで一喝したのだ。
それから懇々と人の家庭を壊す事の非常識さを解かれた。
由芽子は諦めきって黙っていた。
「強情な娘だ。でも残念ながら広崎は一時の気の迷いと言ってるよ。君にも迷惑かけたと」
切り札の様に今里は言い、皆子供に対するような笑顔で頷いた。
「嘘だ」
由芽子は心の中で呟いた。