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読書の森

宮部みゆき 『とり残されて」

宮部みゆきの作家デビューは比較的早いです。
1987年、速記者だった27歳の時オール読物新人賞を受賞してしばらくアルバイトを続けながら創作の道に入ったのです。

『とり残されて』は1992年出版されたものです。ほぼ同時期に名作『火車』が上梓されてます。

私は宮部みゆきの作品の中でこの頃のものが1番好きです。押さえつけていた彼女のイマジネーションが一気に溢れ出て、とてもみずみずしい感じがするからです。

全編に共通するのは、大切なもの(心の支え)を失った人物が主人公だという事です。
例えば、以前紹介した『たった一人』は孤独な女子社員がやっと出逢えた懐かしい人(その時私立探偵を職業としている)が実はこの世に存在していなかった話です。

他の作品も、時間をワープしたり、別の人物と入れ替わったり、幻の声を聴いたり、オカルト的要素と現実が入り混ざりながら、不思議に既視感のある作品ばかりです。


表題の『とり残されて』は最愛の人を自動車事故で失った女性が主人公。事故を起こした加害者はブルジョワの娘である。しかも未成年。免許取り立ての事故という事で示談で収められる。
しかし女性の気持ちは癒されない。
何故なら、加害者が全然悪いと思っていなかったからだ。
女性としては、きちんとした形で本人に謝罪してもらいたいだけなのだ。
勇気をこして加害者の邸宅を訪れ、庭先を見た彼女は深く傷つく。
娘は、イヤな事は早く忘れようと、幸せそうに新しい愛車の手入れをしていたのである。
そのまま、急いで去ったが、女性は沸き起こる殺意を抑えられない。

それでも、理性の勝つ彼女は衝動を抑えて日々真面目に仕事を続けている。

その気持ちにシンクロするように現れた小学生の男の子。彼も理不尽な仕打ちを受けた体験で深く傷ついていた。
愛らしいこの子は実は過去の世界からきたのだった、、。


この展開の仕方がダイナミックで作者の豊かな創造力が発揮されています。
野次馬的な感想ですが、作者は形こそ異なれ非常に理不尽な目にあった方でないか、と思えるのです。

かけがえがない、と言えなくても親しい人と理不尽なコロナ禍の中で引き裂かれた思いの人は多いのではないでしょうか?
このご時世に読み直すと、さらに心に響くものがありました。

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