昭和32年爆発的な家庭電化ブームが起きた。
大手家電メーカーから新しい電化製品が次々と売り出されたのである。
中でも、白黒テレビ(カラーは未だ無い)、洗濯機、電気冷蔵庫は「三種の神器」と言われて、庶民の憧れの的だった。
三種の神器とは天皇家の重要不可欠な宝物である。
それに擬えて、家庭に不可欠な便利な宝と宣伝したのである。
ただし、まだ割高で庶民が簡単に購入出来る訳でなかった。
その当時のテレビは正方形の箱の様に分厚く、リモコンもなく、チャンネルは回して選んだ。
画面も不鮮明で、時々線が走った。
洗濯機は二槽式で、付属のハンドルを回して自分で脱水した。
又、冷蔵庫は小さめで、冷凍庫はかなり狭かった。冷凍食品など皆無の時代である。
デザインも機能も進化していなかったが、電化製品の殆ど無い時代にとって、ピカピカの宝物だった。
購入した事が家庭のステータスになったのである。
それまでの暮らしは、旧式のラジオを聴き、夏は氷の冷蔵庫で物を冷やし、洗い桶に洗濯板を立てて洗濯をした。
氷の冷蔵庫は、木製で上に氷を入れる。
溶ける前に氷屋に注文して新しい氷を持ってきて貰う。
かなり、長閑な話だった。
恐らく今程に酷暑で無かったと覚えている。
洗濯物はどんなに手できつく絞っても雫が垂れる。
それでも、晴れの日はどの家でも盛大に洗濯物を干していた。
今の様に部屋干しという習慣が無かった様である。
子供の私は家事に無関心で、三種の神器に敏感に反応しなかった。
しかし、テレビという魔法の箱には憧れた。
それから2年後、今上天皇のご成婚中継を見たさにテレビは一挙に普及した。
ふと、不自由な時代を振り返ると、とても懐かしい気がする。
ラジオから流れる30年代の「1丁目1番地」のメロディをもう一度聴きたくなる。
それだけ年を取った訳だ。
ただ、こんな不便な生活をしても、人と人の間は和やかだった。
子供に優しい時代だったと思う。
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