この物語を読み終わって、直ぐにブログで紹介したい衝動が湧く程面白かった。
それもその筈、発表された2014年ミステリー部門の1位を独占した作品である。
序破急という言葉が有るが、静かな展開が続いて急にあっと驚く結末に導く。
その推理は、如何にも論理的で納得出来るのに「それも有りかよ」と思ってしまう。
実は、『満願』は形を変えてテレビドラマとなる。
ゴールデンタイムの出し物で有るし、ネタバレで紹介する事は到底出来ない。
ただ、私がこの作品に惹かれるのはミステリー的要素だけではない様だ。
昭和浪漫を感じる物語の背景にもある。
昭和61年、主人公は中野にある古いビルで弁護士事務所を開いて10年になる。
彼は苦学して身を立て、中堅の弁護士としての地位を気付いている。
学生時代の下宿で、彼は美しく優しい奥さんに憧れて居た。
回顧の中の奥さんは桔梗柄の銘仙を着て達磨市へ行ったり、いつも楚々としている。
不甲斐ない夫に仕えて家計のやりくりをする、まさにひと時代前の日本の妻である。
物語が昭和46年から始まるので、当時の有り様がしっとりと大人の筆で描かれている。
私は一瞬錯覚を起こして、米澤穂信はこの時代に生まれた人かと思った。
其れ程、作品は遠くなってしまったあの時代を彷彿とさせた。
どっこい、作者は1978年生まれ、学園小説でデビューした人である。
作家とは成熟する事も子供に帰る事も出来る職業だと思った。
さて、この「満願」の意味だが、小説の上辺だけ見ると、刑期を終えて娑婆に出る事だと思える。
しかし、どうもそれだけではない様だ。
例えば、受験を目標とする場合、合格は満願と言える。
例えば恋する女の場合、結婚は満願と言えるかも知れない。
世の中、金に一番価値を置く者、愛情が一番という者、名誉が一番という者様々である。
それを得る迄に努力して、全て得た時が満願成就なのだろうか?
私は其々の満願成就を求めて生きる過程の時代が一番良いなと思えるが。
ところが、この物語の受刑者は、その何れでもないものに価値を置いている。
そして、これぞ本当に昔懐かしい昭和の価値観だと瞠目した。
読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️
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神崎和幸
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神崎和幸
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