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美也は大学を出て、出版社の編集部員になった。
仕事は面白く充実していた。
3年間仕事を続けた時編集長が変わった。
かなり女性蔑視のある人で美也をいじめた。
ある日美也はキレて編集長と口論してしまった。
「あんたみたいな生意気な部員は要らん」
「私もこんな職場にいたくない。辞めます」
勢いで辞表を出したが美也はモヤモヤとしていた。
心をリセットしたいと旅に出た先が沖縄の小浜島である。
そこで夫となる人と知り合ったのである。
当時商事会社の営業だった彼は美也に猛烈にアタックした。
それに押されて結婚したのを美也は後悔はしていない。
ただ男の子に恵まれた後、夫が脱サラをして貿易業を始めてから苦労した。
人手不足で夫の仕事の雑用と家事を引き受け、かなり激務が続いたのである。
忙しさの余り、男の子を一時両親に預けた事もある。
夫の仕事は軌道に乗り大勢の社員を使う社長となった。
山手に家も購入した。
その度に美也は雑事を引き受けて夫を助けた。
中学生の長男がひどい引きこもりになったのは夫の仕事の全てが順調にいった時だった。
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「ああ、構ってあげてなかったのだ。母親という実感を子供が持てなかったのだ
とその時悟ったの」
美也は寂しそうに笑った。
彼女はひたすら長男の心の回復に努めた。
相談所や母親のグループにも入った。
長男が長い暗いトンネルから出て私立の高校に通う頃、夫に女がいる事が分かった。
それまでも浮気が無かった訳ではないが、今度は本気と知った時地獄が始まった、と美也は笑った。
「その頃から脚が痛み出して、同時に体調が悪くなったの。ガタが来ちゃってたのね」
響子は言葉も無かった。
一人の女の半生を、ポンと丸ごと切って出された様な、その重さに絶句したのである。