読書の森

彼女はエスパー その1



アルバイト先の出版社で、小田智はライターの高村智恵子と知り合った。
『智恵子抄』の智恵子と同姓同名という事もあり、彼はかなり年上の高村智恵子に興味を持った。

智恵子は元気そうな声の大きな女性で、『智恵子抄』のイメージから遠かった。
ただ、彼女の書く記事の文章は鋭く繊細だった。
見かけと内面がかなり違う人だと智は感じた。

小田智はA大学文学部の三年、貧乏学生である。
この大手出版社で働いたのは、あわよくば正社員になれないかという下心があったからである。
しかし、仕事がきつく給料が安いだけでアルバイトとしてこき使われてるだけの様だ。



「小田君、さっき読み合わせしてくれて有難う」
突然声をかけられ、ドギマギしてる智に智恵子は顔一杯の笑顔を浮かべて見せた。
「お礼にビール奢るよ!帰り飲みに行かない?」

「あの僕、お酒ダメなんです。ケーキとかなら食べたいけど」
自分の言葉に智は自己嫌悪を感じた。

断れば恥をかかずに済むところである。
要するに何となく謎を秘めた年上の女をもっと知りたいだけだった。

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