一見豪華に見える分譲マンションの2LDKを眉子は借りている形だった。スポンサーがいた訳ではない、勤めていた証券会社の上司とマンションのオーナーが親しかった関係で、元社員の為に便宜をはかってくれ、通常より安く借りられたからである。
そのマンションの見かけが、富裕層の顧客が生まれるきっかけになったらしい。
眉子の死亡推定時間前後の顧客もそうだった。
妻の浮気に悩む大手レストランの社長は、死ぬ前の眉子の様子はいつもと全然変わりなかったと言っていた。
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眉子の部屋は綺麗に整理されていた。
貯金通帳や現金が取られた形跡もない。
メモ帳や携帯には予定のみ記されて、私的な書き残しは一切なかった。
アルバムが何冊か置いてあったが、おかしな事に、証券会社に勤めていた時代の写真は一枚も残っていなかった。
何故か、角谷警部はこれが心に引っかかった。
学生時代の清純そのものの眉子と、占い師らしくベールを被った妖艶な眉子との間の時期、勤務時代や結婚生活において何があったのだろう。
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死亡前日の客は揃って、眉子はいつも通りでそれなりの占いをしているとしか言わなかった。
そもそも、青酸カリを所持しなければ、殺人は成り立たないのだ。眉子自身が薬局で入手した事は皆無だったし、入手出来るツールもなかった。
顧客を調べても、彼らが入手出来る可能性は極めて薄い。
一応彼らの行動の裏付けを取ってみたが、限りなく白に近い。
「ひょっとしたら、自殺じゃないの?」
「原因はなんだよ」
「男に振られて」
「男関係はきれいなもんさ」
「だからさ、虚しくなってよ。
あたら、女盛りを占いで明けくれりゃ虚しくなるさって」
バカ言ってる同僚の話から角谷は「はっ」とするものが有った。