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読書の森

愛しのエリー その3 再篇

「ご心配いただき恐縮です。失礼ながら大場さんに聞きたいのですが。エリーという女性の存在をどこで知ったのでしょうか?」
「松平に電話して分かったのです。エリーちょっと待ってね、チュ、、なんて声が聞こえたんですよ」

大場は痛ましそうに絵梨を眺めた。

「お言葉返してすみませんが、私は事実を確認しないと信じないタチなんです。
残念ながら私彼の住所知らないのです。大場さん、本当にお手数ですが、これから松平さんのお家に一緒に行っていただけませんか?」

「えっ、そんなに。彼を愛してらっしゃるのですか?」
「これって恋愛と違います。偉そうな事言うけど、彼も私も高齢者の生活の質を上げる為のロボット研究をする同志なんです。これは同志愛です。彼はそんな簡単に女性と同棲出来る人じゃないと思うのです」

大場は今度はびっくりしたように絵梨を見つめたが、それでも親切に絋の家の場所を教えてくれて、絵梨を護るように一緒に付いてきてくれた。




絋の家は瀟洒な住宅街の一角にあった。
カラフルな周りの家と比べて、どこか昭和を彷彿とさせる古い家で朝顔の鉢が玄関に見えた。
絋が必死に介護した末に亡くなったという祖母の家だったのだろうか?

まさか一軒家に住んでいるとは思ってなかった絵梨は驚いたが、姿勢を立て直して呼び鈴を鳴らした。
玄関が開いて、出迎えたのは可愛いエプロンをかけた女性だった。エリーなのか?
よく見ると、エリーは絵梨にそっくりの人型ロボットと分かった。

「いらっしゃいませ」テープを内臓したのか声も似てる。
ロボットは終始笑顔だが、その顔は人形みたいで血の気が無くて気味悪かった。
そして、、、紘はエリーの背後からおずおずと現れた。

それが、荒淫に窶れた中年男の様な虚ろな目をしていたのである。その時、エリーはまさかの行動をした。
絋を庇うかのように一歩前に出たのである。
絵梨はエリーを全く無視して言った。
「松平さん、こんにちわ。今日は免許を持った医師としてあなたにお願いがあるの」
「お願いがあるの?」
紘は鸚鵡返しに聞いた。

大場は紘を気持ち悪そうに凝視していた。
絋はそれも気にしてないように、だらけた表情のままである。
絵梨は動ぜず真っ直ぐに紘を見た。

「今お昼時ですよね、お腹空いてませんか?私これから食事作ります。それからお願いについて話しますわ」
絵梨は家から持参した食材で手早く料理を作った。
紘の台所は一応のものは揃っているが、あまり使っていないのがありありと分かった。
出来合いのもので済ませているのか?


その時、「食事なら私作ります」
絵梨に立ち塞がったエリーは棚からプロテインの缶を開けようとした。
構わず、絵梨はエリーに包丁を突きつけて言った。
「Shut Down !」絵梨は素早くロボットの首の横のボタン(服の一部のようだった)を押して取り去った。これに電源が入っていると考えたからだ。
奇妙なロボットとそっくりの顔した人間の女性の戦いを見守る二人の男が凍りつく中、ロボットは機械的に動きを止め、それっきりだった。
絵梨はそれを無視して手際良く食事を作っていく。

やがてテーブルに料理が並び、大場は気まずい顔して絵梨はムキになるだけ、ロボットのエリーは本来の無機物に帰ってただ置いてある。奇妙な食事風景になったが、紘は貪る様に食べてるだけだ。常備してるサプリだけで、よっぽど家庭料理に飢えていたらしい。
絵梨はそれを見て思わず涙を流した。
食事が終わった後に絵梨は真剣な眼差しで紘に話しかけた。

「松平君が何故エリーというロボットを作ったのかよりも、ロボットとの歪んだ仮想生活自体が問題だと思う。自分を社会と遮断した為にあなたの心自体歪んでしまったと私感じる。
人間らしい生活をする為になんらかの医療機関で診て貰う必要があると思うのよ」

「なんだ、親切ぶりやがって! 人をキチガイにする気か。俺は正常だ」
今まで感情を殺していた紘は絵梨に殴りかかった。
絵梨は身を避けた。

紘は激昂しテーブルのナイフをかざした。
「止めなさい」
「止めろ」
大場は慌ててスマホを取り出して、緊急通報した。


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