読書の森

殺しの相談 その1



「なあに、こんな所に呼び出して」
原文香は口を尖らせた。
スラリとした肢体と可愛い表情、小気味よい口調が魅力的な女性である。

そこはこの地区で一番整備された図書館である。
図書館の敷地の中に小さなレストランがある。

安価でいかにも簡素な、学生客が多いレストランに呼び出したのは恋人の能村優である。
モデルに間違えそうなイケメンだが、冴えない服装が邪魔をして、陰気な印象を与える。

二人は学生時代イベント会場でのバイトで知り合い、社会人になった今も付き合っている。
恋人というより、身体も許し合った友達の様な関係だった。
当然会う時は夜が多く、会う場所も違った。
二人の関係を知る人はいない。

「ごめん。実は読書家の君に折り入って相談したい事があってさ」
「読書家たって私ミステリーしか読まないよ」
「それなんだ。ミステリー小説で培った知識を聞きたいんだ」
「何それ?」
「俺、上手に人を殺したいんだよ。その方法を研究したくて」



瞬間、文香はフリーズした。
優は文香の強張った顏をみて笑い出した。

「小説だよ。驚かせてごめん、ネットミステリーに応募しようと思ったから。
文香も知ってる様に俺の給料少ないだろう。
副業というと限られるしさ、文章作るの好きだから、懸賞小説に応募して賞金稼ぎしようかと思った」

文香も笑い出した。
「ビックリするじゃない。まあ、優は文才あるからな」
「今の世の中の憂さを払う様な凄えミステリーが書きたいんだ」

優は、苦い笑いを浮かべた。
それは、文香の好きないつもの優の顏だった。
一流ホテルに勤める文香と違い、優は業界新聞のフリーランスの記者で薄給に喘いでいる。

文香が優を深追いしないのもそれが理由だった。
お互い心と身体の相性がどんなに良くても結婚はできないと、彼女は思っていた。

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