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『戦争中の暮らしの記録』は花森安治氏存命中の昭和55年、暮らしの手帖社から発行された。
まだ生々しさの残る戦争体験、虐げられた庶民の生活の記憶を綴ったものである。
まだ数多くの戦争体験者がいて、彼らは生々しい思い出を寄せている。
この本を購入時、私は今日の世情を予測した訳では全くない。
寧ろ両親の青春時代、昔通り抜けた時代へのノスタルジーがかなり入って読んだのである。
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実は、と言っても当たり前の事だが、それは日本人にとって受難の時期であると同時に、動物にとっても受難の時期だった。
動物園の殆どの動物は皆殺しにされた。
犬や猫も例外でない。
飼い犬は供出して、帽子の毛皮や食肉にされたとか、愛犬家にとって身も凍る事実があった。
戦争中は大変な食糧難に見舞われ、いつ空襲が起きるかも知れない。
動物園の動物を観に来る客もないし、動物に食べさせるようなものなぞ残っていない。
飢えた動物が脱走して人を襲ったら大変と、虎や熊やライオンは銃殺された。
上野動物園の人気者のゾウが懐っこいので、飼育員はどうしても殺せない。
と言って、食べ物も与えられない。
痩せ細ったゾウは飼育員が近づくと哀しい目をして、力を振り絞り芸をしてご褒美の餌をねだった。とうとう力尽きて死んだと言う。
「もっと悲惨な最期を遂げた人間もいるのに何だ」と言われそうだが、私はこの話を思い出す度、胸がつまり泣けて仕方ない。
さて、今日紹介するのは、戦火の下で命をかけて愛犬を守り抜いた飼い主の主婦の話である。