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読書の森

『バラ』の思い出

きれいな薔薇は毎年変わらない姿ですが、人はそういかないのが残念ですね。
しかし、幾年月を経ようと、その時人の心に咲くバラの花は色褪せないように思います。


薔薇をテーマにした歌、文学、演劇は古今東西数多あります。
その中で、私にとって忘れられない切ない恋をテーマにした、『バラ』のドラマがあるのです。

原作は曽野綾子の『一条の光』で内館牧子が原作にかなり色付けして脚本化したものです。



それが1988年11月放映した、岸惠子、菅原文太主演のTVドラマであります。

今ネット検索してもストーリーについて説明は殆どされていません。
そこで私の朧げな記憶を辿ってお話してみます(この場合、オリジナルになるのでネタバレとはならない筈)。

場末の町工場に新しく入った工員、この辺りで珍しい、苦み走った良い男である。
寡黙だが仕事は出来るこの男、定時に出社して定時に帰る。
謎を秘めたこの男。
周りの女性陣の中で熱を上げる者が少なくない。

ある日ファンの一人が彼に薔薇を贈る。
男は受け取るが内心困っている。
彼は独身者だし、一緒に住む女どころか好きな女もいない。
受け取るだけではそれほど困る訳も無いと思うが、、?


実はこの男の住居は刑務所だったのである。誤って人を殺して服役中のこの男、模範囚の為、町工場に出向しているのだった。
決して言えない自分の過去や現在、だから彼はただ一人も心を打ち明ける人がいない。

刑務所にバラを持って帰る事は出来ない、困惑した男の前を同じ工場の女が通る。
自身の不幸な生活に疲れた中年の女は、暗い雰囲気を身に纏い、ボソボソと男の前を通る。

突然、男は彼女の手に真っ赤なバラを押し付けたのだった。
思わず花を手に持ったまま、女は呆然と男を見つめる。
しかし、男はその逞しい背中を見せたまま、さっさと帰って行った。

女が男性から薔薇を貰う事なんて生まれて初めてだった。

男と別れ、子供を抱えて独り働く女の暗い表情に彩りが見られるようになった。
毎日、バラを自分にプレゼントした男に会える、二人だけの秘密だ、それだけで女は潤えたのだった。
女にとって幸せな日々が続く。
しかし、男は相変わらず素っ気ないし、周りはライバルばかり。
だんだん、女はヒリヒリした焦燥感に駆られてくる。

ある日女は勇気を奮って男と二人だけで会う機会を作った。
その場でも黙り続ける男。
そこで女は自分の辛い過去を洗いざらい告白した。
それでも黙る男を女は、激しい口調で詰った。
「あんたはわたしを揶揄って嬉しいのか!」
「イヤ、違う。俺は人を好きになる資格なんか無い!俺は人を殺してるのだ」

男も自分の過去を告白していく。
、、、

翌日から、男は二度と再び工場に出社する事がなかった。

そして、月日は流れ。

さんさんと光の差すある日の午後、女は刑期を終えた男の許へと、真っ赤な薔薇の花束を抱えて訪れるのだった。

男は菅原文太、女は岸惠子、男盛り女盛りの魅力的な二人の演じるロマンスは、情感たっぷりの素晴らしいドラマでした。



リアルタイムで気づかなかった人生のドラマの意味が、今分かる気がします。

生活の重圧や孤独感で、心が色褪せて、薔薇の美しさにも無関心になった日々。
単調で不安な日々、そこに突然訪れた恋心はどんな年齢層の心にも花を咲かせてくれるようです。

ドラマの男も女も人に言えない過去と現在を持っている。お互いにありのままの感情を吐露して、それを相手が受け入れた時、心の通い合いを感じたのでしょうね。
それが、その二人の薔薇の花だったのかも知れません。

勿論、全く遊離してしまうと困りますが、現実ばかりに囚われていると見えないものが一番幸せをもたらすものかなあ、と今も私は思います(甘いですかね)。




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