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芥川竜之介と言えば、痛烈な皮肉や鋭い感性を描いた作品を思い浮かべる。
出世作『鼻』は、ごく普通の人にも宿る悪意を巧みに小説仕立てにしている。
名作『藪の中』は、ある殺人劇に異なる証言を並べさせる。
それぞれ己の都合の良い証言しかしない。
ここで人の言葉の真実がいかに突き止め難いものかを突いている。
今読んでも色褪せない鮮烈な印象を与える。
正直、同時代の菊池寛、以前の夏目漱石に比べて、敬遠するところがあった。
エリート意識の人、小手先で才気を翫ぶ人、異常に研ぎ澄ませた神経の人と捉えて、毛嫌いしていた。
特に晩年の『河童』には冷酷さを感じた。
母のお腹に耳を当て「生まれたくない」子供を間引くとは何事かと思った。
しかし、今これを逆に「生まれたくない子」とは彼自身の事かと考えると見えるものがある。
さて、写真の文庫本は彼には珍しく子供向けに描いた物語である。
ヒューマンな雰囲気が満ちて、寧ろ郷愁を覚える大人が多いだろう。