読書の森

芥川竜之介の童話 後編



しかし、私が中学生の時はじめて出会った芥川竜之介の作品は新鮮で純粋そのものだった。

それがこの文庫に載る『杜子春』や『蜘蛛の糸』との出会いである。
金や権力よりも、親子の情や人への思いやりの価値を問うた素朴な作品になっている。

特にこの中の『父』は、親子の微妙な愛情を伺わせる。
優秀なな学校に通う作者は剽軽な級友がいて、ジョークが好きだった。

修学旅行の日、その級友の父は通勤途中そっと見送ろうとしたらしい。
如何にも時代遅れな服装で、父親と知らない友人たちは遠くから嘲笑った。
彼は、それを知りながら、皆の前で父親の服装を辛辣なジョークで喩えた。

父親を知る作者の他、友達は何も知らずに無邪気に受ける。
父親も何を言ってるのかわからない距離に居た。

その級友は中学卒業後夭折した。作者は「君親に孝に」と弔辞を読む。

姿を見せた父は息子を思う善意の父である。
しかし、彼はお人好しで惨めな姿の父親を皆に晒したくない。
わざと冗談を言って隠す訳である。



この機微が中学生の私には分からなかった。
ただ深く心に残った。
今シミジミその心に伝わるものがある。

芥川竜之介は実は親に恵まれなかった人である。
母親は彼が生まれて直ぐに精神病院に入った。
詳しい家庭環境について知らない。
しかし、彼の厭人癖も、後々の自殺も実の母親の愛情を知らない事が原因すると思う。
根の部分が脆弱なのだ。

それなのに、それだからこそ、この作品中にある家庭の温もりや善意への希求が痛い程伝わる。

余りにも傷ついたからこそ、後年の毒矢の様な皮肉を放ったのだと思える。

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