作者、山田風太郎は医師出身の戦中派で荒唐無稽な歴史小説で知られています。
彼は当時(1990年代、作者70代)の日本の世相についてユニークな見方をしています。
例えば上層部の公然たる嘘について、「嘘をつくのが当たり前と言うとその嘘の効果が失われてしまわないかと心配している」と言います。
国民の大多数が「今度も嘘か当てにしない」と疑ってきたら、いざ戦争になったらどうするか?という事です。
ただし、90年代は東日本大震災以降の想定外の出来事はまだまだ起きておりません。
なので、風太郎さんは半ば冗談混じりに軽いエッセイの形にしてます。
その飄々とした語り口で、戦中戦後の修羅の世を生き抜いた人の人生観が綴られてます。
面白い話が多い中で、流石と思ったのは「暗号」について。
太平洋戦争の始まったきっかけになる1941年12月8日の「真珠湾攻撃」は実はアメリカ側で暗号解読していたそうです。
大国アメリカにとって勝ち戦と予測出来たから、何かと煩い日本をやっつける口実として黙っていたみたいです。
つまり、日本人は暗号解読が非常に劣っているらしい。騙すのが下手。
一方、アメリカ人は同国人の中でも暗号や今はネットで騙しのテクニックを駆使していらっしゃる。
アメリカに限りません。
風太郎さん亡き21世紀の今、「騙すのは卑劣」などと言っていては通らない世の中になったのはご承知の通りです。
なんて寒々しい世の中になった事だろうと昭和を引きずる婆さんは思うのですが。
戦前の正義と愛国心を旨とする教育を受けた山田風太郎さんが、かくも現実をシビアに分析されたのは、「敗戦」の記憶が非常に影響していると私は感じます。
情を失わずに冷静な愛国心を持ちたいものです。