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ベテラン時代小説家の傑作短編集です。
戦前日本の教育を受けた作家ばかりで、ここに描かれた女性は、もはや姿を消してしまった古風な道徳観の持ち主です。
それに私がほっとするのは、子ども心にそんな女性の姿が刷り込まれているからでしょうか。
『意気地なし』は江戸の長屋の話です。
妻に先立たれ赤子を抱えた男と近所に住む若い娘の話です。
無口で働き者だった男、伊作は乳飲み子を抱えて、蒔絵師の仕事ができずただオロオロするばかりだった。
しょぼくれた格好をして、しょげきって情け無い彼は男としての魅力は全くない。
後添えをもらえば子供の世話をしてくれ、仕事が出来るだろうに、一眼見て女性が逃げ出してしまう。
娘のおてつは伊作を軽蔑しきっていた。
しかし、ひょんな事から泣き叫ぶ赤子の世話をするようになって、放っておけなくなる。
おてつは好きな男がいるのに、その男と逢っている最中に赤子がお腹を空かせていないかと気になってくるのだった。
赤子の世話にのめり込む内に、おてつは哀しそうな伊作に同情していく。
伊作が先行きの見えない寂しい生活に絶望して赤子と心中しようとするのを止めてから、その気持ちがどんどん強くなってしまう。
出会い茶屋に恋人と入った時、おてつは格好いい恋人がたまらなく軽薄に見えて、逃げ出してしまうのだった。
そして、とうとう伊作の家に駆け込んでしまう。
子供の面倒を見て伊作も身綺麗にしてあげる、そんな思いがおてつの胸を満たす。
そして静かに伊作に頼むのだった。
「おかみさんにしてください」
「そんな馬鹿な、こんなお人好しの男女など居ない」
と思ってしまう。
自分を好いてくれる稼ぎの良い若い恋人を捨て、子持ちの意気地なしのしょぼくれた寡にプロポーズする娘。
それも充分可愛くて健康な生娘である。
しかし、男は真面目で仕事に一途で身綺麗にすればそれなりの男なのだ。
私は藤沢周平の私生活を連想してしまいました。
彼も愛妻を早くに亡くし、残された一人娘の世話と仕事でアップアップの暮らしをしていたのです。
「そんな自分を救ってくれたのが今の妻である」
後年藤沢周平は述懐してます。
あふれるような母性愛がこの作品の底に流れてる気がします。
そんな堅苦しく考えなくても、ほっと優しい気持ちになる一編です。
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大根飯を作ってみました。
細切りした大根と油揚げ、少量の生姜を炊き込んだ混ぜご飯です。
出し昆布、醤油、味醂、塩を適量加えます。
ご飯の炊き上がりに大根葉を塩茹でしたのを混ぜて、ゴマを散らしました。