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読書の森

色ガラス その1

田舎町で育った兵頭敏恵が生まれて初めて上京したのは昭和29年、日本が占領体制を離れたばかりの時代だった。

戦後の農地改革や預金封鎖などで殆ど財産を抑えられた生家の困窮が、敏恵の上京の誘因になっていた事を幼い彼女は知る由もなかった。
彼女が覚えているのは、職を失ってから両親の仲が険悪になり、母が実家に帰ってしまった。敏恵を連れて行くのを祖母は許さなかった。
そして、優しかった父親が金策に追われて家を離れた事である。
急遽祖母が敏恵の世話をする事になったが、家事や育児を女中任せにしていた人なので、毎日のおかずは佃煮ばかりだった。

大好きだった小学校の授業中、突然敏恵の耳が聞こえなくなった。先生の声も友達の声も何処遠くに響いていて何を言っているのか、全く分からなくなった。

その日から彼女は高熱を出し、床についた。


その町の医師の診察を受けた敏恵は「肺結核の疑い」と言われた。
高熱が出て咳が激しかったからだ。難聴の病因は不明である。

投薬を受け、栄養剤を与えても症状が回復しない敏恵を見かねて、東京の大病院で診察を受ける事になった。
下町の工場に嫁いだ伯母を頼る事にしたのである。









読んでいただき心から感謝いたします。

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