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敏感な杏子は、冷静に見える多美が何か大切な秘密を隠しているのに気づいていた。
杏子は苦しい時に自分の母が特別な病院に入っている事を多美に打ち明けた。
多美なら呑み込んで受け止めてくれると思ったからだ。
打ち明けると、多美はかすかに涙ぐんだ。
優しい人だと杏子は多美を信じている。
服装も身分も違う彼女と違和感なく付き合っていけるのは、多分二人が同じ要素を持っているからではないか。
宝くじなんて嘘だろう。
大阪は多美にとってその大切な秘密が隠された場所なのだろう。
しかし、何故一人で行かないのだろう。
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「多美さん、私大阪には行きたくないわ。大阪は私の実家があったところよ。家が潰れて父も兄も死んで、廃人になった母がいるところ」
杏子は低い声で多美に訴えた。
言ってから後悔した。
しかし、多美はじっと黙って杏子を見守っている。
「杏子、あなたお母さんと会いたくないの?もう80近いお年でしょう」
ややあって多美はポツンと呟いた。
「一口に言えないわ」杏子は強張った顔で言った。
母はもはやそんな年になっている。
思い出すのは若い頃の可憐な面影だけなのに。
杏子は長い事しまい込んできた家族への思いをどう表せばいいかわからない。
「ごめんね。でも私、あなたと大阪の道頓堀へ行きたいの。
あの場所はたった一度だけど、あなたのお兄様と昔歩いた場所なのよ」
突然の多美の告白に杏子は言葉を呑んだ。
白いローンのワンピース姿の多美がみるみる若返って20代の娘に見えた。