読書の森

触れ合い



由美子の弁当箱の中身を見て、アルバイトの絵里はギョッとした。
冷めたカレーとご飯が辛うじて均衡を保ってゴロンと入っている。
昨晩のおかずをそのまま入れて来たのだ。

由美子はその保険会社の正規の社員である。整った顔は綺麗に化粧されていた。
スリムな身体にキッチリした制服がよく似合う。
一見優雅な若い女子社員の殆どが、リッチにはほど遠い生活をしていた。

わざわざ、弁当用のおかずなど拵える時間や金を惜しみ、昨日のおかずに手を加えて詰めてくる。外食など滅多にしない。
女子社員の殆どは20代で、質素でつつましい生活をしていた。勤務先が渋谷のために、洒落たブティックがある。若い娘らしく身の回りを飾る為の出費が多いらしい。


昭和51年には、ファーストフードはあまり普及していない。ましてやコンビニは皆無に等しかったのだ。

若者の人気が高い渋谷駅のすぐ近く、準大手の保険会社の本社はいかにも近代的な美しい建物だった。
絵里はこの建物に入る事が誇らしかった。

しかし、内部の組織は古き日本そのもので、殆ど機械化されていなかった。そこで働く社員は日本的で、古い人情を美徳としていたのである。

絵里は、25歳の訳ありの女性である。
名の通った大学を普通に卒業したのに、未だ正規の仕事に就けなかった。

当時の就職状況はかなり売り手市場だったのだにも拘らずである。

絵里の何が訳ありで、何故正社員とならなかったのか?
実は絵里は、過去に失恋に過剰反応して自殺未遂を図っていた。
長い事、痛手から立ち直れなかったのだ。

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