光岳(2,592m) (つづき)
登山の前日は、飯田線平岡駅すぐ横の龍泉閣で泊まりました。
4階には温泉があります。ここで湧き出ているわけではなく、タンクローリーで毎日運んでくるとのことでしたが、独特のすべっとする感覚は残っていると思いました。
翌日は朝5時に登山口までタクシーを予約しました。
2015年の国勢調査によると、平岡駅のある天龍村の人口は1,365人で、1960年(5,792人)の4分の1にも満たない人数です。もっとも、天龍村より人口の少ない長野県の村は7つあります。長野県の「村」の数は35で日本一です。
天龍村では過疎化が深刻で、あと30年後には人口が200人台に減ってしまう予想があるとのことでした。
昭和の頃、南アルプスへ向かおうとする登山客で、平岡駅が賑わっていた時代があったといいます。森林鉄道の軌道を辿って登山口まで歩くのは、枕木の間隔が狭くて歩きにくかったそうです。今よりも登山道具が重くて嵩張るものだった頃です。
国道152号線を通って山道に入ります。谷を挟んで反対側の斜面に、集落が広がっています。「前が岩」と木製の標識が立っている場所で、少しだけ車を停めてもらいました。
深い谷に向かって、十二単のように尾根が幾重にも落ち込んでいます。遠くの方の谷底は、山に隠れて見えません。今見えているものよりも、はるかに多くのものがあるに違いないと思わせるスケールの大きさがあります。
素晴らしい眺望です。「日本のチロル」と言われる、下栗の里です。
走ってきた道は、車がすれ違うのも難しい細さです。
辿って来た道路沿いにも集落があります。しかし、斜面が急すぎて、道路の下にある家々が、窓から見えなかったのです。
美しさ以上に、この地で生活を営むことの環境の厳しさの方が伝わってきました。頭が下がる思いがしました。
(登頂:2019年9月中旬) (つづく)