高妻山(2,353m)
「深くあることと深く見えること。――自分の深いことを知っている者は、明晰さを手に入れようと努める。大衆に深いと見られたがる者は、暗さを身につけようと努める。なぜなら、大衆は底の見えないものは何ごとによらず深いと思うからだ。大衆はじつに臆病なもので、水の中に入るのをひどく嫌がるものだ。」
(ニーチェ(信太正三訳)『悦ばしき知識』(筑摩書房))
”深い”を”気高い”に置き換え、”者”を”山”に置き換えたとしたら、高妻山ほど自らが気高いことを知って、明晰さを手に入れようと努めている山はないでしょう。鋭鋒ぶりは凄いの一言につき、斜面は激しく昂って、欠片ほどの遠慮もありません。あまりの強さに対し、憧れは感じず、登る前から大変そうとだけ思ってしまいます。高妻山の登山道について、楽だとか普通だとか書いてある本はひとつもありませんでした。どうなることか分かりませんが、頂上に立つことができれば眺望が素晴らしいのは間違いないでしょう。
飯綱山に登った時、高妻山はいつにしようかなと考えていましたが、たった2ヶ月後に早くも来ることになりました。
自宅からの日帰りは難しいと考え、長野市で前泊することとしました。北陸新幹線「あさま」の最終で長野駅まで行きました。高崎から先は全部の駅に停まっていきます。安中榛名では会社帰りの人が何人も降りていきました。
翌朝はスタート地点の戸隠牧場、キャンプ場までタクシーに乗りました。長野は6月なのにとても寒く、ザックからジャケットを出そうかと思ったほどでした。運転手さんも「昨晩は久しぶりに毛布をだした」とのこと。昨日は北海道で雪が降ったところもあるというし、今年は暑い日が続くと思っていたら一筋縄ではいかない気候です。
戸隠牧場では、牛が育てられていますが、早朝なので牛はいず、一頭だけ馬がのんびり芝生の上を歩いていました。
登山道は、途中の「六弥勒」までは一不動を経由するルートと弥勒尾根ルートの2種類あります。斜面は急でも岩場はないということで、弥勒尾根を歩くことにします。すぐ渡渉がありますが、難しくありません。その後は樹林帯が続きます。最初はブナ以外に、しなのきなど他の木もありますが、登るほどに明るいブナが優勢となってきました。そしてセミの大合唱。朝からとても気持ちがいいです。
狭い樹の間を通ると、香りがしてきそうです。
(登頂:2016年6月初旬) (つづく)