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3歳からピアノを習っていたので、一番好きな作曲家はショパンです。
中でも、一番好きなのが革命です。
ソナタもバラードも前奏曲も名作ですが、一番好きな曲はこれしか考えられません。
ロシアによるワルシャワ侵攻、陥落の知らせを受け、絶望の気持ちを表したという、有名なエピソードがあります。
本当の話であっても無くても、どちらでもよいと思います。わずか3分ほどの革命のエチュードは、何千万もの人に希望を与え、勇気を与えてきたに違いありません。
◆ホロヴィッツ(「ザ・ショパン・コレクション」(ソニー・クラシカル SICC1190~6))
◆ブーニン(「衝撃のショパン・コンクール・ライヴⅡ」(ビクター VDC-1106))
◆メジューエワ(「幻想即興曲~ショパン名曲集」(若林工房 WAKA4150))
◆ハイドシェック(「伝説の宇和島ライヴ4 革命・告別・幻想」(キングレコード KICC3634))
数ある革命のCDから、ただ一枚名演を選ぶなら、迷うことなくホロヴィッツです。
この演奏を聴く前の印象は、音楽評論家・宇野功芳氏の次の文章に集約されていました。
「~ 小品では、ショパンの「革命のエチュード」がわすれられない。リズムのキレのよさと、それにともなう痛切なダイナミックスは、対照的な青白いピアニッシモとともに、聴いていて完全にひきずりまわされてしまう。 ~」(『名演奏のクラシック』宇野功芳(講談社現代新書))
初めて聴いた時は本当に驚きました。まったく予想できない弾き方だったからです。
フォルテ(強く)やフォルティッシモであっても音量は大きくなく、むしろ多くの部分が抑制された演奏になっています。
ペダルをほとんど使わず、左手から繊細な音が1つ1つはっきり聴こえるのにびっくりしました。
(0:16)~の強弱の対比が痛切で印象に残り、(0:39)はそれほど強くないのに心の底まで響く、重く悲しい音になっています。
宇野氏が「青白いピアニッシモ」と呼んだピアニッシモの中で、最も青白いのは(0:50)ではないでしょうか?ここで場面が完全に変わってしまいます。世界を激変させる最弱音と言っても、言い過ぎではありません。
(1:04)~巨大なアクセントが再び場面を転換させ、のたうち回る奔流のような左手が、ショパンの深い嘆きを伝えてやみません。
この演奏の凄さは、初めて聴いてから20年以上たった今でも、聴くたびに当時の驚きがそのまま甦ってくるところにあります。
この演奏は1972年7月のものです。ホロヴィッツは1963年11月にも、同じニューヨークのスタジオで革命を録音していますが、9年後の録音の方が素晴らしいと思います。
ブーニンのCDは、1985年にショパン・コンクールで優勝した時のライヴ録音です。
当時19歳のブーニンの演奏は若々しい迫力に満ちています。(0:12)のミスタッチすら豪快で、一気呵成に先へ先へと進みます。
ホロヴィッツが最大の振幅で、絶妙な強弱の対比を見せた場面も真逆の弾き方です。(0:19)や(0:34)、さらに(0:49)まで全部フォルテで通していますが、一本調子的な物足りなさはありません。楽譜を見ると、(0:49)の箇所にはちゃんとフォルテの指示が付いており、譜面に忠実なことが分かりました。
自分の中では一番オーソドックスな革命ですが、似た演奏が他にもありそうで、探しても見当たりません。貴重な演奏だと思います。
メジューエワの「革命」は何種類かあり、ショパンのエチュード全集(若林工房 WAKA-4139)に入っているものも名演ですが、「ショパン名曲集」におさめられている演奏がより素晴らしいと思います。全曲を通して、1つ1つの音に力があり丁寧で、デモーニッシュな雰囲気が革命のエチュードにぴったりです。
ハイドシェックの「革命」は、輝かしい最初の和音、(0:16)の谷底を覗き込むような弱音で始まるところから、もの凄い演奏を予感させます。
その後はテンポの激変が続出し、(0:35)~では左手が孤独な表情を見せ、(0:47)~の豪快なクレッシェンドと(0:55)の大きな左手のアクセントも独創的です。
(0:57)~(1:07)にかけて、4つの小節で少しずつ全部違うバリエーションの豊かさ、(1:14)の念を押すような表情に(1:22)の急激な加速、全曲を通して聴きどころが満載です。
最も劇的でユニークな演奏ですが、自分にとっては、ピアノの椅子に座ると、同じように弾いてみたいと思ってしまう演奏でもあります。
こうして、気に入っている4種類のCDを聴くと、革命は様々な個性に反応し、真逆のスタイルの演奏を両方とも受け入れる、幅の広い曲だという感想に至ります。 (つづく)